2007年 12月 17日
帰りがけに大急ぎで買取本の袋をチェック。小林信彦の文庫本を 2冊見つける。また大急ぎでグラシン紙・ジャケットをかけ、 持ち帰る。商品に手をつけるんだから、尚更グラシン紙は必要なのだ とか言いつつ。 短編集「中年探偵団」(文春文庫 81初帯)から読もう。第1編 「甚助グラフィティ」、初出は78年「オール讀物」5月号。後に 「唐獅子惑星戦争」に収録。 < ぼくは答えながら窓ガラス越しに、新宿の汚れたビル群を 眺めた。 新宿で生きることは地獄で生きるに等しい。外人が珍しがる 蟻穴のような地下街だって、ちょっとした地震がくれば全滅 だろう。なんの落ちつきもなく、人間が蝟集(いしゅう)して いるだけの街だ。 西口の高層ビル街だって、風の通り具合を計算しないで 作られたのである。にせものの(注: 原文は傍点)ニューヨークの 中を吹き抜ける風の強さは、ただごとではない。あの風に火の粉が 混ったら、どのビルも硝子の地獄(グラス・インフェルノ)だ。 新宿見たけりゃ今見ておきゃれ じきに新宿、原になる。 と唐十郎がうたったのは、ぼくが高校生のころだったと思う。 地震や火事がなかったにもかかわらず、新宿は原になったしまったと ぼくは感じる。唐十郎の予言は当ったのだ。新宿は荒原になって しまったし、この街に集まってくるのは、自分たちが生きていると 錯覚している陽気な死者たちだ。>(p37) 主人公の青年は1952年生まれ、25歳という設定。作者・小林信彦は 1932年生まれだから、執筆当時45-46歳か。いまや都市は消滅し、郊外 という名前の「荒原」化がますます進行する。
by byogakudo
| 2007-12-17 13:34
| 読書ノート
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