2008年 02月 15日

「ハマースミスのうじ虫」読了

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 イギリス・ミステリは渋くっていいな。素人探偵・キャソンと
ストラット警視との軽口の応酬も、アメリカンなやり過ぎ・さわぎ
過ぎじゃないので疲れない。

 けれども、わたしは結局、第二次大戦後のかなりアメリカ化
された東アジア人なので、イギリスの階級制度がやっぱり理解
しようもない。

 犯人をゲーム感覚で追いつめるのは、まだわかる。恐喝犯の
卑劣さに対する怒りも共感できる。だけど、犯人の出身階級に
対する作者の嫌悪や侮蔑の念までは、到底、共感できない
気弱さをわたしは持つ。

 ロウアー・ミドルクラスに属する犯人の住むビッカース・
ストリートの描写は、
<(略)それは中産階級の俗物根性が凝り固まってできた
 殺風景さだった。(略)ここは、少しばかり景気のよい
 小商人が、賑やかな家族とひしめき合って暮らすために
 作られた場所なのだ。>(p75-p76)

 ここらはまだおとなしいが、出身階級にもかかわらず
骨董品によい趣味を持ってしまった犯人の夢想する美的な
生活の描写となると、なんだかなあ、嫌悪と悪意が明確に
伝わって来て、どうも居心地が悪い(p158-p163)。

 わたしの弱者に対する気弱さ・不徹底さのせいで、過剰に
反応したのかも知れないが、ロウアー・ミドルのくせして
クラブに招かれようと夢想する、その成上り根性が醜いと
断罪されているように感じた。犯人の罪は、じつは恐喝でも
殺人でもなく、その身の程知らずな上昇志向であると、
言われているような。

 作者がそう思っているのではなく、物語の中の探偵の主観で
あろうという解釈は、この場合成り立たない。犯人が自室に
こもって繰り広げる夢の生活は、一人称で語られている。

 意地悪なことに、彼の夢想は体験のない世界を想像して
いるので、どうも月並みな夢想になる。クラブに呼ばれて
する食事の内容など、
<飲み物はシャンパンに赤ワインにポートワイン。メインは
 舌平目の切り身とロースト・チキンで、デザートには
 トライフルとチーズの盛り合わせ。あるいは、おれが
 食通だという話が伝わっていて、鶉(うずら)にセイボリーに
 スティルトン・チーズという、簡単だが粋なメニューに
 なるかもしれない。>(p161-p162)

 対照的に、主人公が自宅に戻ってする食事やワインは
ちゃんとブランド名で記される。

 わたしは成金嫌いではあるが、ここまで侮蔑の念を表明する
元気はないや。他人の俗物根性を糾弾・指摘する資格は、そして
俗物批判が共感を持って迎えられる筈だという信念は、どこに
あるのだろう? 階級制度の中に、という訳か。

 じわじわとサスペンスフルで、面白かったんですけどね。
     (ウィリアム・モール 創元推理文庫 06初帯)
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by byogakudo | 2008-02-15 15:14 | 読書ノート | Comments(0)


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