2008年 02月 21日

中町信「三幕の殺意」読了

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 いやあ、不思議なものを読んでしまった。登場人物ほぼ
全員がトイレに行くミステリだった。そりゃあ暖房といえば
火鉢がメインの冬の山小屋、頻繁にお手洗いに通っても
おかしくはないが、リアリズムを追求する社会派ではなく
本格ミステリの筈だったが。

 雪で孤絶した小屋の中の誰かが殺人犯に違いない。だから
各人が自分のアリバイを述べ立てるのだが、男女を問わず、
皆さん夜中に目覚めてトイレに行ったと仰る。地の文でさえ
うら若い女性がお茶を飲んだ前後にトイレに行くことが記される。

 荷風が何かに、厠が文芸に登場するのは、日本文学の中に
俳味を求める姿勢があるからだとか書いていたけれど、本格
ミステリに俳味を加えようとしてお手洗いに通うシーンを
入れたとは思えない。

 泌尿器科に属する話題が大っぴらなのは、もしかして日本の
文化的伝統であろうか。(おお、美しい日本の私ったら!)
 TVCFでこんなに無造作に、生理用品や痔薬の広告が流れて
いる国もめずらしい。タブー意識がないんだろうな。

 イングリット・カーフェンがモツァルトのメロディーにのせて
「血に染まりしコーテックス(生理用品)」と歌うとき、社会への
明確な挑戦意識が感じられるが、このミステリにそんなものは
ない。悪意も何もなく、生きてるんだからトイレにだって行く
だろうという無頓着さである。日本にはヒエラルキーが存在しない
からだろうか。
 不思議がる方が変ですか?

 英語タイトル (The Fugue with three parts) がきれい。

     (東京創元社 08初帯)
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by byogakudo | 2008-02-21 13:27 | 読書ノート | Comments(0)


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