猫額洞の日々

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2008年 05月 12日

「荷風と東京 『断腸亭日乗』私註」読了

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 「読み終えたらまた荷風を読もう」という気にならせる
ところが素晴しい。川本三郎らしく、出しゃばらない控えめな
姿勢で、荷風の魅力・「断腸亭日乗」の魅力を伝える。

 「断腸亭日乗」という地点を離れず、テクストを補完する
立場に徹する。

 「二十七章 『活動写真』との関わり」ではたとえば、
荷風は一般に映画嫌いと思われているが実際はそうでもない。
浅草通い以降、だんだんと映画を見るようになって行く様子が
示される。
 戦前に見たのは主にフランス映画__「モスコウの一夜」
「別れの曲」「白鳥の死」等__であるが、

<昭和十六年の太平洋戦争の勃発のあと、日本ではアメリカ
 映画は敵国映画として上映が禁止されていた。その時代に
 フランス映画が上映されていたのは、一九四〇年(昭和十五年)に
 フランスがドイツに降伏(ヴィシー政権誕生)して、形の上では
 日本の同盟国になっていたためである。荷風はそのために
 昭和十八年にフランス映画を楽しむことが出来た。>(p366)
と解説される。

 戦後はかつての映画嫌いが打って変って、よく映画を見るように
なる。「田園交響楽」「獣人」「女優ナナ」他のフランス映画、
若い頃オペラやレビューに親しんだ荷風らしく、音楽映画「シベリヤ
物語」「白鳥の湖」等を見る。
 フランス映画の名作・話題作__「大いなる幻影」「巴里の空の下
セーヌは流れる」「夜ごとの美女」__にバルドー「素直な悪女」
まで見ている。
 アメリカ映画も戦後はかなり見ていて、「風と共に去りぬ」
「エデンの東」に「知りすぎていた男」「泥棒成金」、プレスリーの
「やさしく愛して」までも見る。素敵。

 二十七章の末尾は、こう結ばれる。
< なお荷風が最後に見た映画は、オードリー・ヘプバーンの
 『パリの恋人』だった(昭和三十二年十一月二十九日)。パリと
 いう言葉に魅了されたからだろう。>(p370)

 どの章もディテイルをしっかり検証する態度で書かれているが、
特に1930年代のモダン都市・東京にふれる箇所を熱中して読んだ。

 荷風はできれば単行本で欲しいが、全集を集めて読むのが、
実際的だろう。時にはお金持ちになりたくなる。

   (川本三郎 都市出版 96再帯)
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by byogakudo | 2008-05-12 13:22 | 読書ノート | Comments(0)


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