2008年 05月 29日

「まるごと杉浦茂」より (2)

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< あの頃、二科展なんかで大変なもんだったんですよ、
長谷川利行って。>(p153)
 だが、窮死する。
< [略]あの方はね、絵が売れるっていうより、たまに無理やり
 買ってもらうんですよ、町の旦那衆とかに。[略]>(p153)

 お金が入れば呑む。
<[略]ただ、素面(しらふ)でいれば油絵を描いていた。キャンバスが
 なければ、そこらから佃煮(つくだに)の箱の蓋(ふた)を拾って
 くるんですよ。それが立派なスケッチ板になるからね。油絵って
 便利ですよ、ああいうのにでも描けるから(笑)。佃煮の蓋なんて
 こんな大きなのがあったら大喜びですよ。立派な絵が出来る。
 あの当時、佃煮の蓋に絵を描いた絵描きなんて珍しいだろうな(笑)。>
(p154)

 絵描きでは食べて行けない杉浦茂は田河水泡に弟子入りする。
1932(昭和7)年4月1日、3ヶ月間机にしまっていた紹介状を携え、
田河水泡宅を訪問。3日の誕生日で24歳になろうとする時である。

 漫画家になった杉浦茂は松野一夫とも知り合い、「黒死館殺人事件」の
挿絵が描かれる様子を見せてもらう。
< [略]黒地に白で描いた『黒死館殺人事件』の挿絵はうまいやり方だな
 と思って、それとなく先生[注: 松野一夫]に聞いてみたんだよ。
 そしたらね、『僕はあの原稿を読んでも何がなんだかわけがわからない
 んだよ。だからいい加減にね、男と女を配して入れちゃうんだよ。
 実はあれ読んでないんだよ』っていわれてびっくりしちゃった。>(p154)

< 先生に聞き忘れたことは、どうしてあんな風に、外人が描いた
 ように外人の顔や姿を描けるのかっていうこと。あれ、他の人の絵と
 違っていかにも西洋人らしく描かれているでしょう。あれはいったい
 どういうことなのかっていうのを、聞くことが出来なかった。>(p155)

 若い漫画家たちとの座談会も収録されているが、その中で杉浦茂は、
一人称として「杉浦」を用いている。「私は」ではなく「杉浦は」と
言っている。

 日本郵船の船医になった次兄から、海外の話を根掘り葉掘り聞いて
いるが、杉浦茂自身の海外体験はない。
< ヨーロッパやアメリカへは行ってみたいですね。でも、オースト
 ラリアやハワイみたいなところは、一切ごめんですね。
  [略]
  たいした歴史も文化もないところには、行きたくない__と、
 はっきりしてるんです。>(p39)

 アフリカ、インド、アラビア、南米、中国と、(歴史のある)
異郷を舞台にした映画が好きな杉浦茂は、インタヴューで漫画や
漫画映画に関して聞かれたとき、こう答える。
< 私は、あまりディズニーは好まないんです。あったとしても目に
 入らない。手塚治虫(てづかおさむ)さんと反対なんです。[略]
 ああいう絵はアメリカの俗っぽさを代表するもんで気に入らない。
 [略]
 普通のアメリカのナンセンス漫画は良かったですけれどね。
 「新青年」で毎号たっぷり楽しませてもらった。
 [注: 杉浦茂のお気に入りは オットー・ソグロー]
 [略]
  ベティ・ブープ? あったけど、あれも嫌いだった。あと水兵の
 マンガ。何ていったっけ。>(p137)
 ポパイも嫌い。
< そう。ああいうのは面白いけどね、やっぱり私は"本筋"が好き
 なんですよ、本物が。だから俗っぽさって一番嫌いなんです。
 [略]ミッキー・マウスにしてもベティ・ブープにしても面白いとは
 思うけど、どうも好きになれなかった。>(p137)

 杉浦茂の油絵が1点、紹介されているがモノクロームなのが残念だ。
1930(昭和5)年、第11回帝展入選作、「夏の帝大」という50号の油絵。
素朴派風にもシュルレアルにも見える。左下隅にイーゼルが描かれ、
そこにも「夏の帝大」風景が描かれている。(p143)

   (ペップ出版 88初)
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by byogakudo | 2008-05-29 15:01 | 読書ノート | Comments(2)
Commented by microjournal at 2008-05-29 23:11 x
杉浦茂のおきにいりは、オットー・ソグロー。
べティ・ブープやポパイやミッキー・マウスはお嫌い。
なんだか近しいきもちをいだいてしまいました、おこがましいのですが。
Commented by byogakudo at 2008-05-30 15:16
いえいえ、杉浦茂とMJ(勝手に省略、お許し下さい)の世界とは
通底していると思います。「FROM THE NEWYORKER 080421」
など、Sとふたりで「これってセツに通じるデッサンだよね」と
しみじみ眺めておりました。


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