猫額洞の日々

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2008年 07月 14日

大倉崇裕「聖域」読了

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 気を緩めると、そのまま倒れてしまいそう。ひどい湿気だ。
暑さと絡み合って、思考力を奪う。室内で熱射病患者が発生
してもおかしくない。

 店で読み終えた「聖域」(大倉崇裕 東京創元社 08初帯)、終りの
方は意識朦朧となりながらも、なんとか読了。非常に閑なのです。

 挫折と再生の物語。リーダーとして参加した登山中に、年下の
メンバーが事故死する。それ以来、山を愛する主人公は、山に背を
向けた生き方をしている。新たに熱中する何かも見いだせず、学生
時代のアルバイトの延長で、食べるためだけの仕事をする毎日だ。

 彼のライヴァルであった友人が登山中に死亡したと伝わる。友人の
技量を思えば、事故や自殺とは考えられない。他殺の疑いを抱いた
主人公は素人探偵を始めるのだが、ミステリとしての開始部分が、
何だか弱い。他殺説の前提に、説得力や必然性があまり感じられない。
 おぼつかない手つきで書かれているのは、主人公の自己意識の
不安定さと呼応しているからであろうか。まさか。

 登山用語が出てくるのは登山小説として当たり前だが、「山行」は
「さんこう」と読んでいいのだろうか。「やまゆき」では締まらないし、
ルビが欲しかった。

 物語はずっと、主人公の視点に沿って書かれている。
 ところで、素人探偵の調査中にCD-Rが送られてくる場面がある。
彼はPCが苦手だし持っていないので、会社員の山友だち宅で中身を
知ろうとする。友人がPCを操作する場面では、主人公の視点と
外れた客観描写になる。

< 「駄目だ。見つからない。キャッシュも存在しない」>(p184)
と友人から言われて、主人公は何も問いたださない。「キャッシュ」
くらいのPC用語はわかっている、ということか。
 まあ、PC痴の立場と言語(いや無言語)で、この場面を書こうと
すると、何が言いたいのか、しどろもどろ・支離滅裂な記述になるから、
物語の都合上、それは避けたのだろうが。

 でもずっと、ハードボイルド・ミステリみたいに主人公に沿って
一人称的に書いて来たのに、視点の不統一は気にならなかったのかしら。
 まったくハードボイルドの主人公らしく、挫折した登山家は物語中で
何度も殴られているが、結末はもちろん、登山家としての再出発で終わる。
 感じは悪くなかったけれど、山男はわからない。
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by byogakudo | 2008-07-14 13:06 | 読書ノート | Comments(2)
Commented by wasurerare at 2008-07-16 03:24
はじめまして。さんこうで合ってます。気まぐれでコメントしてみました。
Commented by byogakudo at 2008-07-16 18:22
はじめまして。「さんこう」、ありがとうございます。
ギャラリーQでもやっておられるのですね。


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