2008年 09月 09日
click to enlarge. フエンテス短篇集である。まず、お客さまから薦めていただいた 「女王人形」から読む。 すばらしい。 主人公の青年がふと思い出し、心惹かれる少女の名前が「アミラミア」。 原文を知らないので「アミラミア」の綴りは不明であるが、amie+lamie、 女友だちにして女吸血鬼、の意味が込められているのかしら。 海で拾った瓶に入っていた手紙のように、忘れていた本の中に 挟まれていた、白いカード。子どもっぽい下手な字で書かれた メッセージと地図に導かれて、青年は少年期の出会いを思い出す。 夢想的な14歳の少年と、彼にまつわりつく7歳の少女。いつも 公園で会っていた彼女の姿と行為が、映画のスティルの説明みたように、 克明に1場面ずつ記される。子どもっぽさと妙に大人びた一面をもつ 少女・アミラミア。 しかし青年期に入りかけた少年は、子ども/大人な彼女の振舞いを 煩がり、拒否し、彼女は去ってしまう。 追憶にそそのかされた青年は、ある日、地図に記された彼女の家を 訪れるが、気配はあるのに誰も応えない。 二度目の訪問は家主の代理人を騙って、ドアを開けさせる。そして その日の午後、三度目にして、少女の死を伝えられる。老いた両親に 幼いころの様子を尋ねられ、ふたたび彼は公園での記憶のスティル ショットを口にする。 直後に見せられる、少女の死を再現した室内の描写が圧倒的だ。 タイトルの「女王人形」とは、陶器でつくられた死体の人形を指す。 彼女のベッドにまるで眠るように横たわり、部屋は花と蝋燭と子どもの おもちゃで一杯だ。胸苦しくなるほど彩られた、華麗な死の部屋。 (名前を覚えていないが、幼い死者を天使のように飾り立てて撮った、 ラテンアメリカ在住の日本人写真家__どこで見たのか? かつて 中南米では、死者を盛装させて悼んだのであろう。あの写真や、「マリ クレール」から切り抜いた、横たわる蝋人形の写真を思い出す。) ストーリーを書き過ぎた。本を読んで下さい。すばらしい。 フエンテスやコルタサル(時々、区別がつかなくなる)の具体的な 事物(オブジェ)の描写と__いや、小説自体がすでにオブジェだ__、 そこから喚起されるホログラフィックな映像。具体性豊かに抽象性へと 読者を連れてゆく、言葉の力。 表題作「アウラ」に関しては前に書いた(フエンテス「アウラ」再読) 通りである。この翻訳では、こじんまりと見通しのよい物語に なってしまった。 (カルロス・フエンテス 岩波文庫 95初)
by byogakudo
| 2008-09-09 12:23
| 読書ノート
|
Comments(6)
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chocochip.
at 2008-09-09 23:10
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お世話になります。「アウラ・純な魂」、私も好きです。木村榮一訳ですが。シュティフター「水晶」もいいですね。
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Soosianus
at 2008-09-10 14:34
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あの短編集のなかでは、チャック・モールも好きですよ。
水浸しの、黴の生えた神。 安物の香水の匂いをぷんぷんさせて、 唇から口紅がはみ出した黄色い顔のインディオ。。。 どこかであんなインディオに会ったことがあるような気がします…
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byogakudo at 2008-09-10 18:11
chocochipさま> ご無沙汰しております。ラテンアメリカ文学は
イメージが豊かですてきですね。 話は変わりますが、chocochipさまのブログ「080903,TOKYO」 写真にある坂道や東屋にSが記憶を刺激され、でもどこだったか 思い出せない、と言っております。 Soosianusさま> 「チャック・モール」に、映画「召使」の 構図を思い出しては変でしょうか?
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chocochip.
at 2008-09-11 00:08
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Coco様S様 ご指摘光栄です。080903は取材の合間、できた時間で撮したもので、自分でもどこか懐かしいデジャブ感がありました。東屋は山王4丁目の弁天池裏、坂道は同じく山王の細い迷路の奥、山の中腹で、ごく一部の人しか通らない坂道。脇で猫が昼寝をしていました。時間があったら馬込文士村を散策したい今日この頃です。
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卓
at 2008-09-11 20:46
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こんばんは。
こんなに早く、「女王人形」の読後感想を読めて、とても嬉しいです。 やはりすばらしい短編ですよね。 アミラミアのつづりはAmilamiaですが、猫額洞さんの推察どおり かもしれません。 では、中野の方面に行く用事あれば、是非立ち寄ります。
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byogakudo at 2008-09-12 21:02
卓さま> お薦め通りのすばらしい短篇でした。エンディングの
無惨さといい、完璧な美だと思います。 |
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