2008年 10月 07日

鈴木創士「幻脚記 四 阿片窟」読了

e0030187_12352928.jpg









click to enlarge.


 「spin」創刊号から連載中の鈴木創士氏の短篇も、これで
4作目である。各短篇は、毎回スタイルが異なっているが、
それぞれにいつも、鈴木氏特有の緊張感が漂う。いわば
彼の徴のように。

 ところが、彼はまったく別の声でも語れる人であった。
4作目「阿片窟」を読んでみると、いつもの緊張感は抑えられ、
一種、平明な語り口で物語が進行する。
 しかし、虚ろな気持で神戸の街を歩き、いつの間にか魔界へと
誘われる主人公の姿は、やはり彼の作中人物に他ならない。

 大震災後の神戸にふっと現れた異次元の「神戸」の街。
日常が静かにスライドして、主人公はあり得たかも知れない
謎の秘密結社めいた「阿片窟」での儀式__地獄の指定席を
キャンセルするための儀式__に参加する。これがキャンセル
行為に当るものか、(そもそも「地獄の指定席」とは何か?)
何の保証もないけれど。

 先週読んだ東京新聞の「本音のコラム」に斎藤学(さいとう・
さとる)が「アヘン王国潜入記」(高野秀行)という本を紹介して
いた。
<冒険野郎が危険地帯に行っただけでの 本ではない。当人が
 死にかけの疲労の末にアヘンに救われ、村でももてあまされる
 ほどの依存症に至った経過が淡々と描かれている。
  アヘンは「板のような夢」をもたらすという。「細い板の
 上をどこまでも歩いて行く」夢というか夢想。楽しくもなく、
 快感もなく、しかし心地よい。「欲望の器」が小さくなるせい
 だろうと高野は考える。>(東京新聞 08年10月1日朝刊)

 鈴木創士氏の「阿片窟」の落ちついた記述は、文体そのものが
阿片の夢に包まれている、ということであろうか。

 儀式への誘いに無意識に応じてしまったシーンが素敵だ。
<突然、なぜか頭のなかでストーンズのTime is on my sideと
 いう曲が鳴り響き、頭上では蝉の音ばかりがいっせいに
 激しくなっている。>(p44上段)

   (spin 04号 みずのわ出版 08年9月)
[PR]

by byogakudo | 2008-10-07 12:36 | 読書ノート | Comments(0)


<< 難波和彦「戦後モダニズムの極北...      「spin 04号」到着! >>