2008年 10月 29日

吉田健一「絵空ごと」読了

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 早合点がわたしの最大欠点であるが、不遜にも吉田健一が
何代目であるかなんて考えたバチが当って、後の頁には
ちゃんと、明治以降の混乱のせいで家柄も何もあるものか、
といったことが書かれていた。すまぬ、吉田健一。

 人間が人間であるとは、時間の経つのを眺めている心境を
保っていること。それを小説として表現するために、市井の
地道な仕事をしている人々を主人公にしてもよいのだが、
静かな文明批評を展開するには、知的な有閑階級を主人公として
据えた方が展開しやすい。

 名画とされる美術館級の絵画の模写を展示した画廊の話から、
贋ものの絵がかかっている本物の家を数人で建てる話にまで、
物語は緩やかにうねりながら流れ進む。

 主人公たちはみんな、戦後復興後の日本での本物志向が、どれだけ
インチキ臭いかと感じている。好きでもないのに美術館に出かけて
絵画鑑賞に励んだり、有名店だからと、美味とされる料理屋に押し掛け
たりする、大衆的上昇志向に見られる虚偽や、流行りの思想にうつつを
抜かすエセ知識人どもに邪魔されることのない、いわば竹林を、築こう
とする。主人公たちは男性五人(ひとりは英国人)、女性二人である。

 好きな絵が掛けられ、楽団を呼んで室内楽を演奏させて、酒杯を
片手に音楽を愉しみ、目を庭に遊ばせることもできる、あたかも
個人の住宅のような賢者たちの共同の夢の家を熱心に語る、主人公
たちの口調を読んでいると、「小公女」セアラの屋根裏部屋の宴会
場面の熱気を思い出した。
 吉田健一の好きな本として、たしか「小公女」もあった筈である。
p44には、岡本紀[ママ]一の挿絵がついたアンデルセンのお伽噺の
ことも話題に上がっている。

   (河出書房新社 71初函帯)
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by byogakudo | 2008-10-29 16:25 | 読書ノート | Comments(0)


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