2009年 02月 24日

陳舜臣「柊(ひいらぎ)の館」読了

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 2月20日付けdaily-sumusにアラン・グラス情報が!
作品が見られます。おお・・・。

 「柊(ひいらぎ)の館」、始まりは小沼丹「黒いハンカチ」風の、
のどかな連作短篇ミステリ集かと思ったが、どうして、後味は
ビターである。
 巻末の解説に<大人のメルヘン、ロマンに満ちた推理小説>
とあるけれど、そうかなあ。わたしの読み癖がヘンなのだろうか。

 神戸、北野町の異人館に長年勤めるメイド頭が、大正末から
昭和初期に異人館周辺で起きた事件やできごとを語る、という
作りである。元版は1973年刊。「ディスカバー・ジャパン」キャン
ペーンがあり、「異人館、素敵っ!」と若い女たちの旅行熱が高まった
頃だろうか。

 異人館はイギリスの船会社の持ち物で、住み手は本国採用の
イギリス人(白人)、サーヴするのは日本人や中国人(黄色人種)の
女たちである。
 イギリス人の坊ちゃんは若い日本人メイドと戯れても、本命は
同じ人種と階級に属するお嬢さんである。メイドもわかっているから
本気にならない。彼女は封建的な主従関係より、個室を与えられた
ドライな雇用関係を好んでいる。

 幕末の居留地気分を引きずっているのか、イギリス人たちは殺人
事件が起きても、日本の警察に連絡せずに、自分たちの中で
処理しようとする。被害者も加害者も同じ人種・同国人である限り。
 但し、同じイギリス人であっても、本国採用と日本での現地採用組
には歴然と格差がある。日本人との混血児は、さらに下位に属する。

 シヴィアな人間関係の構成と考察は、作者が日本に生まれ育った
中国人だから持てた視点ではないか。
 うつくしかったであろう戦前の神戸風景を思い浮かべながらも、
うっとりとだけはしていられない読み方になった。ヘンかしら。

   (陳舜臣 講談社文庫 82初帯)
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by byogakudo | 2009-02-24 14:18 | 読書ノート | Comments(2)
Commented by まつもと・のぶあき at 2009-02-25 14:14 x
 こんにちは。昔、『ニュース22プライムタイム』の特集で司会の森本毅郎が『今日の読書事情』という話題を採り上げていて、いろんな本好きにインタヴューした結果、次のようにコメントしていました。
「読書家というのは、例えば小沼丹を日常的に読むような人のことをいうらしい、ということは分かりましたが、皆さんは(スタジオのゲスト達に)、小沼丹という小説家はご存知でしたか?---誰も首を縦に振らない---僕は知りませんでした」と言いながら苦笑していました。
 その大雑把な『読書家の定義』が長いこと僕の記憶の端に引っかかっていて、『始まりは小沼丹「黒いハンカチ」風の・・・』というエッセイスト・猫額洞さんの一節が呼び水になって急に思い出しました。
 ところで、来生たかおのデビュー・アルバムで、姉の来生悦子が作詞したいくつかに、小沼の短編からインスパイアされたものがあります。しかし、その後、来生悦子の発言を注意していると、『ホントは小沼丹が好き』とは、とうとう白状しませんでした。
 小沼の『村のエトランジュ』と来生の『赤毛の隣人』を比べると、思わずクスッとしてしまいますよ。
Commented by byogakudo at 2009-02-25 17:08
こ、これを告白してよいものか迷いますけれど、小沼丹は「黒いハンカチ」
しか読んでいない、わたくしなのですが・・・。たぶん他の本も読めば、
好きになる作家だとは思いますが、根がスピードフリーク系のアタマです
ので、なかなか手が伸びません。

それから、できたら「エッセイスト」ではなく「エセ・イスト(仮主義者)」
とお呼びいただければありがたいです。リービ英雄のコラムで、
中国語では「贋」の意味で「仮」を用いると知りました。漢字の「真名」
に対して、日本の文字である「仮名」には「贋文字」の意味があるという
学説もあったそうです。


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