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2017年 02月 13日

ジョゼフ・ウォンボー/工藤政司 訳『ブルー・ナイト』読了

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 アメリカのエンタテインメントらしくサーヴィス精神満開、これでもか
と言わんばかりに1970年当時のLA情報が詰め込まれている。
 それらの風俗情報の運び手、つまり主人公は、50歳のパトロール警官。
飲み過ぎ食べ過ぎ太り過ぎ、事務職が嫌いでこの年まで現場から離れない
仕事中毒だが、そんな男が、引退して転職しようと決意を固める。

 太り過ぎで髪も薄く、すてきとは想像し難い描写が続くが、大学で教える
美人が、彼と結婚したがっている。美人によれば、彼は"青い騎士(ブルー・
ナイト)"__警官の青い制服に青い楯型バッジを着けている__である。
 昔から女には不自由しなかったとの述懐もあるから、まあ何やら魅力が
あるのだろうということにして読んでいく。

 次の仕事場も決まっているし、アメリカでは20年勤務で年金が出るそう
なので、年金と新しい警備会社の給料(と彼女の稼ぎ)と合わせて、安心
して引退できる。彼の中では決心した。親しい同僚、ただひとりには打ち
明けて賛同されているが、今週末、金曜日には辞めると、公に言い出せない。
言うと、再婚兼歓送パーティみたいになりそうで、そっと消えようと思う。

 ただ、自分の町、受け持ち区域の人々に内心で別れを告げるために、彼は
最後の三日間を思い残すことのないよう、巡回する。
 たった三日間ではあるが、事件は絶えず起きる。現場仕事に精を出しつつ、
かつての事件や、もっと以前、第二次大戦の若い兵士だったころの記憶など
を思い出し、ひとりの初老の男による、アメリカ現代史・風俗史が語られる、
という仕組みだ。

 かつては聖書気狂いみたような男の縄張りだった街角は、1970年代のいま
ではクリシュナ教徒が歌い踊るコーナーになり、年老いた男の叫び声はかき
消される。
 刑務所内でもヘロインが出回る。白熱電球からフィラメントを取り出し、
マッチの熱で伸ばす。
<「こうして伸ばしたフィラメントをプラスチックのスプレーびんに取り
 つけてさ、びんの中にヘロインを入れてしぼるとおめえ、タラタラ目薬
 みたいに出てくるだろ。そこで腕の血管を切ってよ、フィラメントをつっ
 こんでヘロインを入れてやるわけよ。[略]」(p46)
__アメリカ人はいやになるほど丈夫なのか、乱暴者揃いなのか。

 主人公の食事場面も丹念に描写される。ハンバーガーにスシにと、パト
ロール区域の料理屋や、あらゆる種類の店舗は、彼のおかげで治安が保た
れていると感謝しているから、それにごまをする気持も加わって、警官から
料金を取らないか、半額にしてくれる。
 ここら辺、マット・スカダーもそうだったなあ。江戸時代の自身番センス
なのか? ともかく食事の時間が来ると律儀にメニューが広げられる。

 読者を退屈させないよう、エピソードがいっぱい、ヴォリュームたっぷり
の食事場面のおかげで満腹感さえ得られる、お買い得ミステリ。

 70年代の映画やミステリの主人公の男たちは、みんな最後には絶望的に
突っ込む、と決まっていた。イージー・ライダー的若い男だけでなく、この
初老の男も破滅を選ぶ。
 しかし、破滅への道を選べるというのは、自分がアメリカに白人の男として
生れてきたというステイタスの自覚、あらかじめ持てる者の立場にあるからこそ、
失くすこともできる、という事情である。

 今やアメリカの白人男は、じつは何も持っちゃいないことを自覚させられ、
絶望のあまり、トランプに投票して憂さを晴らす。じき裏切られるのに。

 今年はどんなアメリカン・ミステリが書かれるだろう?


     (ジョゼフ・ウォンボー/工藤政司 訳『ブルー・ナイト』
     ハヤカワ文庫 1981初 帯 J)



呪 吐爛腐/呪 心臓亜屁/呪 共謀罪=ネオ治安維持法/





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by byogakudo | 2017-02-13 21:14 | 読書ノート | Comments(0)