猫額洞の日々

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2017年 03月 12日 ( 1 )


2017年 03月 12日

須賀敦子『霧のむこうに住みたい』読了

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 久しぶりに須賀敦子。エッセイばかりで、彼女の翻訳書は読んで
いなかった。ナタリア・ギンズブルグも名前しか知らない。

 『私のなかのナタリア・ギンズブルグ』の後半に、"アクチュアルな"
できごとについてギンズブルグが急いで書いて出した本を、須賀敦子が
批判する箇所がある。

< しかし、この本は、私をとまどわせた。題材がいかにも生々し
 すぎるのである。だまし舟という、おりがみの遊びがある。
 [略]
 目をつぶって、はい、あけてもいいよ、見てごらん、といわれて
 目をひらくと、自分が帆と信じてつまんでいた部分が、しらぬまに
 舳先になったり艫になったりしている。上手な比喩ではないが、
 私はこの本を読んで、これまでこうと信じていたギンズブルグが、
 不意に思いがけない、別の顔を見せたように思った。
  それと同時に思いだしたのは、戦中戦後のフランスやイタリア
 の文壇をにぎわした、社会参加の文学と呼ばれたジャンルのこと
 だった。
 [略]
 今日の世界は、もしかすると、あの頃とおなじくらい、危機的
 なのかもしれない。これは、彼女なりの抵抗の表現にちがいない。
 ふと、私は、ナタリアがこれを書きながら、ナチの牢獄で惨殺
 された夫のレオーネ・ギンズブルグのことを考えていたのでは
 ないかと思った。それでも、と私は思った。どうして、それを文学
 のなかで捉えてくれなかったのか。それとも、時間はそれほど逼迫
 しているのだろうか。
 [略]
 かつてのプルーストの翻訳者が、社会参加の本を書いてしまった
 ことについて、私は考えをまとめかねていた。ずっと以前、友人の
 修道士が、宗教家にとってこわい誘惑のひとつは、社会にとって
 すぐに有益な人間になりたいとする欲望だと言っていたのを、私は
 思い出した。文学にとっても似たことが言えるのではないか。やはり、
 翻訳者は著者に近づきすぎてはいけないのかもしれない。彼女には
 彼女の生き方があるのだし、私が訳していることとは、関係がある
 ような、ないような、だ。>(p71~73)

 須賀敦子の気持が分からなくはない(つもりだ)が、須賀敦子が
ナタリア・ギンズブルグに違和感を覚えるように、わたしも須賀敦子に
やや違和感を感じる。

 須賀敦子自身、実践行為のひとでありながら文学者であるが、
文学は実践から遠く離れていなければ自律できない行為なのか。
 あまりにできごとに即しすぎた文章は、わたしも好きとはいえない、
いや、近頃はダイレクトなパンフレット文体も実用文として引用するし、
必要文(?)として承認する。

 日本語は、抒情しか包含できない言葉なのか。いや、そんなことはない。
ベルナール・ラマルシュ=ヴァデル『すべては壊れる』を鈴木創士・松本
潤一郎 訳で読んだではないか。
 日本語と日本語文学(日本語訳された文学を、もちろん含む)は、抒情を
得意分野とする、とは言えるだろうが。

 <だまし舟>の比喩や、<かつてのプルーストの翻訳者が、社会参加の本を
書いてしまった>という表現が、文学的というより、ブルジョア・ライクな
反射神経に感じられて、違和感を覚えるのだろうか。


     (須賀敦子『霧のむこうに住みたい』 河出文庫 2014初 J)


 今日も古本屋へ行った。今日は西荻窪、盛林堂。

 店頭で、光瀬龍『寛永無明剣』(ハヤカワSF文庫)、
クリストファー・プリースト『ドリーム・マシーン』
(創元推理文庫SF)、フレドリック・ブラウン『彼の
名は死』と『復讐の女神』(創元推理文庫)、レーモン・
ジャン『ネルヴァル』(筑摩叢書)__これは、Sもわたし
も昔持っていた。

 店内で、フレドリック・ブラウン『シカゴ・ブルース』
__あらっ、持ってた!__『交換殺人』『モーテルの女』
『悪夢の五日間』(創元推理文庫)と、アルフレッド・ベスター
『コンピュータ・コネクション』(サンリオSF文庫)。

 また古本屋を始めようというわけではなく、たんに読みたいから。



呪 吐爛腐/呪 心臓亜屁/呪 共謀罪=ネオ治安維持法/

<今の日本は、戦中の大日本帝国を理想化する人々にハッキング
 されている感じ。日本の歴史を、「取り戻す!」と叫ぶハッカーたちが、
 サイバーテロよろしく、あちこちで書き換えようとしている。>
(https://twitter.com/hiranok/status/840553895130619904)





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by byogakudo | 2017-03-12 19:40 | 読書ノート | Comments(0)