猫額洞の日々

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カテゴリ:読書ノート( 2362 )


2017年 06月 23日

(2)ドロシイ・セイヤーズ/松下祥子 訳『箱の中の書類』読了

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~6月22日より続く

 風俗の背景にあるのはフロイトとアインシュタイン、それに
ダーウィンだ。モダーン最先端の登場人物たちなので、彼らは
一様に科学精神に惹かれる。会話も思考も、つい、その方面に
流れる。

 小説の舞台が1930年直前に取られている。技術的に大量殺人が
可能になった第一次大戦の後遺症で、科学が新しい神として地上に
君臨しようとする時代だ。
 (ポストモダーンって、たんに近代の延長に過ぎないじゃないかと、
いつもの悪態をつきたくなる。)

 作家が恋人(彼女も小説家)に宛てた手紙で、ミセス・ハリソン
(若い後妻)を分析してみせる。

<彼女は同時に二つのまったく相反する方向で芝居ができる。まるで
 ヴィクトリア朝の時代精神みたいだな。ある生き方が現代的ですてきだ
 と思えば、即座にそれを自分のものにする。そこに嘘はないんだ。現代
 女性はキャリアに精神的満足を見出す、と"新聞記事で"読めば、彼女は
 もうその女になりきっている。
 [略]
 ところが、人格形成には"完全な肉体生活"が必要だ、とでも読めば、
 彼女は挫折した母性的な女性で、子供がいさえすれば問題はなくなる
 ってことになる。はたまた、自分は"偉大なる娼婦"だと頭に描けば、
 顔をのぞかせるだけで、そびえたつトロイの塔を焼き落とせると信じ
 込む。そういう具合さ。彼女の真の姿は何なのか、
 [略]
 この演技力に、ものすごい活力と、よくコントロールされていない知力が
 加わると、なかなかの見ものだってこと。もし彼女がこういう役の一つを
 本気にしてくれる相手を見つけたら、たぶん見事に演じきって生きていく
 だろう__まあ、一生涯は無理としても、大したドラマだと感心させる
 くらいは続くよ。残念ながら、ハリソン[注:中年の夫、電気技師]はいい
 観客ではない。すばらしいと思っても拍手はしないから、演じるほうは
 がっかりだ。>
(p42下段~p43上段)

__フェミニズムの曙を、その未成熟さをよく知る(であろう)女性作家
(セイヤーズ)が、登場人物たる男性作家の口を借りて語る。

 第一次世界大戦のアプレゲールたちの物語、と読んだ。ディスカッション
小説としても楽しい。


     (ドロシイ・セイヤーズ/松下祥子 訳『箱の中の書類』
     HPB 2004再 VJ)


 昨日に続いて今日も(朝10時過ぎに出かけた)、阿佐ヶ谷・
千章堂書店へ。まっしぐらに行き、まっしぐらに戻ってくる。
 店頭の河出文庫・久生十蘭の残り、『十蘭万華鏡』『十蘭
レトリカ』『十蘭錬金術』『十蘭ビブリオマーヌ』『十蘭ラスト
傑作選』をさらう。
 『久生十蘭ジュラネスク』は持っているから、これで『コレク
シォン・ジュラネスク』、全冊揃い。




呪 亜屁沈臓/呪 共謀罪=ネオ治安維持法/呪 吐爛腐/

 安倍晋三や稲田朋美は、どの面下げて沖縄「慰霊の日」追悼式に
出席できるのか。

 私立高校無償化は本当に公明党の言う通り、共産党の「実績横取り」
なのか? 都議会の議事録を調べてみた。


 共謀罪強行成立記念! 安倍政権の暴挙を忘れないために振り返る
「共謀罪トンデモ答弁・暴言録」


 【票を入れるな危険】日本会議所属の都議候補一覧

 小池百合子氏 日本会議“本流”から外れた愛国者

 「共謀罪」法 衆参両院議員の投票行動

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by byogakudo | 2017-06-23 15:37 | 読書ノート | Comments(0)
2017年 06月 22日

(1)ドロシイ・セイヤーズ/松下祥子 訳『箱の中の書類』半分弱

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 ウィルキー・コリンズ『月長石』の1930年代版、みたような
ミステリだ。
 おそらく殺人事件に至るであろう状況の関係者が、事件以前に
関係者あるいは無関係な人々に宛てて書いた手紙と、事件が起き、
終息した(であろう)時に、関係者であり資料編纂者である人物
から求められて書いた手記、が時系列で配置される。

 読者は少しずつ状況を理解して行く仕組みだ。倒叙ミステリで
ない限り、ミステリは大体そうだけれど、つまり、作者が話者と
なって状況を述べる書き方ではない、と言いたかった。
 読者は次々に現れる資料を読みながら、何かが起りそうな状況を
思い浮かべてゆくドキュメンタリ風ミステリである。

 半分近く来たのに、未だ、事件以前というのか未満というのか、
表面的には大したことは起きていない。

 1920年代後期のロンドン郊外。中年の夫はミドルクラスの上層、
20歳以上若い後妻は夫よりは下の階級である夫婦と、彼女に付き
添う家政婦が、戸建てに住んでいる。その二階に、若い絵描きと
作家が下宿してきた。ふたりは階級的には夫の方と近そうだ。
 イギリスの小説や映画では、登場人物の階級を一応分かってないと
話が読めない。上記の階級に関して、確信も皮膚感覚的理解もない
けれど、記号的に、たぶんそうであろうというところで読んでいる。

 長い長いヴィクトリア朝が終わっても建物は残る。登場人物たちが
暮らすのも
<ヴィクトリア朝中期のやたらと背の高い建物>(p24下段)である。
 人々のものの考え方にも堅苦しさが残るが、しかし時代は変わる。
フロイトとアインシュタインの時代が来ている。近代の到来だ。

 知的なミドルクラスではモダーンの潮流から目を離せない。電気
技師(モダーン!)である夫は趣味で絵を描くので、下宿人である
若い絵描きに助言を求める。
 軽薄な(ボヴァリー夫人タイプ?)後妻は、新しいものに目がない。
新思潮、新傾向と見える動きには何でも知ったかぶりの口を挟む。
 モダーニズムには新しい女性像も含まれるから、彼女は夫が自分を
理解してくれないと、観念的かつ強固に嘆く。

 フロイトの影響はすでに決定的だ。後妻付きの家政婦は神経症で
精神科に通っている。彼女が書く手紙の滑稽さは、『月長石』の
何とかいう老嬢の手記の愚かしさと呼応する(だろう。読み返して
ないので、頼りない記憶で書いている)。
 後妻と若い絵描きが浮気ないし真実の愛に目覚めるところまで来た。
殺人まであと一歩であろう。


     (ドロシイ・セイヤーズ/松下祥子 訳『箱の中の書類』
     HPB 2004再 VJ)

6月23日に続く~


 今日は阿佐ヶ谷、千章堂書店・店頭で久生十蘭『パノラマニア十蘭』
(河出文庫)。湿気が強くて、くたびれた。




呪 亜屁沈臓/呪 共謀罪=ネオ治安維持法/呪 吐爛腐/

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by byogakudo | 2017-06-22 21:04 | 読書ノート | Comments(0)
2017年 06月 20日

D・M・ディヴァイン/野中千恵子 訳『兄の殺人者』読了

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 やっとD・M・ディヴァインの第一作『兄の殺人者』を読んだ。
兄弟あるいは姉妹の物語というのが、彼のパターンらしい。

 ここでもいきなり、夜遅く、弟が兄から電話で呼びつけられる
シーンから始まる。
 二人は父から継いだ弁護士事務所を共同経営している(他に
血のつながりのない共同経営者もいる)。
 アグレッシヴでやり手の兄、誠実で従順な弟。霧の深い夜、
オフィスに着いた弟は、兄の死体を発見する。

 警察を呼ぶ。専制君主的な兄だけが開閉していた金庫から、
兄が脅迫をしていた証拠に見えるポルノ写真が発見される。
 警察はそう見るが、しかし人は、"らしくないこと"はしない
ものだ。

 弟は自力で捜査を始める。調べれば調べるほど、周囲の人々の
問題点も露わになる、まるで霧が晴れてゆくように。

 ハッピーエンディングな家庭劇で、感じがいい。だけど、読み
終わるとすぐ忘れちゃいそうなのが、(今のところ)、わたしに
とってのD・M・ディヴァインだ。なんとしよう。


     (D・M・ディヴァイン/野中千恵子 訳『兄の殺人者』
     創元推理文庫 2000初 J)


 今日は河野書店の均一台で、山口由美『箱根富士屋ホテル
物語』(小学館文庫)とエリザベス・ヘイ『ガルボ、笑う』(文春
文庫)、店内で絵はがき1枚。



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by byogakudo | 2017-06-20 20:47 | 読書ノート | Comments(0)
2017年 06月 18日

(2)山田風太郎『昭和前期の青春』読了

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~6月17日より続く

 『II 太平洋戦争私観』の『太平洋戦争、気ままな"軍談"』は、
大本教の日本=世界地図にも似た、面妖なエッセイだ。太平洋
戦争下の勝敗を、かつての日本国内での合戦や争闘になぞらえる
だけでなく、麻雀の上がり手にも例えて、歴史を解釈・解説する
「軍談」エッセイである。

 小見出しを書き写すと、『真珠湾__桶狭間か本能寺か』、
『ミッドウェー海戦__川中島合戦(かわなかじまかっせん)』、
『マリアナ海戦__長篠の役』、『太平洋戦争__朝鮮役』。

 最後の『太平洋戦争__朝鮮役』から引用する。

<せっかく敵を包囲しながら失敗したインパール、これほど悲惨な
 いくさは、一戦闘としては日本の過去の戦史にはないようだ。
 [略]
  弾も食糧も敵のものをあてにして、要するに手ぶらで懸軍万里の
 遠征をしようと計ったところ、たしかに戦闘としては過去にないが、
 しかしまず戦争をして、戦争に必要な石油を得ようという「大東亜
 戦争」そのものが大がかりなインパール作戦ではなかったのか。
 インパールは日本の太平洋戦争計画のミニアチュアではなかったか。
  思えば過去の「朝鮮役」がその通りであった。>((p131-132)

 山田風太郎の昭和後期は、生き延びてしまった"戦中派"として、
あの戦争の落とし前をつけるための考察に費やされたのだろう。


     (山田風太郎『昭和前期の青春』 ちくま文庫 2016初 帯 J)



呪 亜屁沈臓/呪 共謀罪=ネオ治安維持法/呪 吐爛腐/

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by byogakudo | 2017-06-18 21:37 | 読書ノート | Comments(0)
2017年 06月 17日

(1)山田風太郎『昭和前期の青春』半分強

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 『I 僕の危機一髪物語』は、旧制中学・寄宿舎の屋根裏に
秘密の部屋を作ったときの話だ。

<安んじてタバコをのむためと、部屋においておけない写真や
 雑誌を収納するのが直接の目的だが、それ以上に、秘密の
 ねぐらを持つということが少年の夢想に叶うものだったから
 にちがいない。>(p71)

 一坪の屋根裏部屋を作るために、椅子を壊して床(ゆか)を張る。
床の上にはゴザを何枚も重ねて畳代わり。三方の壁はボール紙の
内側に白い紙を貼る。出入口にカーテン、照明は天井裏の電線を
延長して電燈をつける。電球一個くらいなら、寄宿舎の電気料が
上がりもしないか?
 暖房には、予備の鉄火鉢(直径50cm以上)と炭俵一俵を運び
上げる。

 風太郎を含む五人の仲間が、秘密の部屋の制作に携わった。授業で
無人になる昼間に、音を立てる作業をする。

<仮病(けびょう)を使って学校を代る代る休んで、一人が作業している
 間、もう一人は部屋の入口に立って見張っている>(p72)。

 何ヶ月か掛かって、彼らの「天国荘」が完成した。

<寮の部屋には、押入が二カ所ある。その一つの方をあけると、上段は
 行李(こうり)やトランクや洗面道具などの置場所となっている。そこへ
 上って、天井板をずらすと、柔道の帯が二本垂れてくる。それをつかんで、
 やっとばかり身を浮かせると天井裏に上昇する。すると、そこには夢幻の
 ごとき天国荘が鎮座している、というわけだ。>(P72)

 映画雑誌やブロマイドに囲まれ、<そなえつけのタバコを吹かしながら>
(p72)、熱心に語り合う旧制中学生たち。

<ふしぎなのは、この天国荘一味以外の寮生たちの心理だ。私は四年で
 あったが、その部屋には五年生も三年生以下の生徒もいる。むろんみんな、
 天井裏の怪巣窟のことは知っている。また各部屋はおたがいにさかんに往来
 するから、突如押入れから出現するこちらの姿を眼にする機会はしょっちゅう
 ある。で、相当数が知っていたはずなのに、ついに舎監の耳にはとどかずに
 終った。
  彼らは一人も密告しなかった。
 [略]
 同室の連中は、私が夜寄宿舎を忍び出て映画を見にゆくことも知っている。
 [略]
 帰還して来た私は、大得意で見て来た映画の話をしゃべりまくり、それを
 彼らは羨望と敬意のまじった眼をかがやかせながら聞いていたもので
 あった。
  そのくせ彼らの大半は、決して私と行を共にせず、天井裏をのぞくこと
 さえおそれをなす、まじめで善良で愛すべき中学生であった。
  しかし彼らが密告しなかったのは、密告という行為を何より恥と考えた
 からだ。>(p81-82)


     (山田風太郎『昭和前期の青春』 ちくま文庫 2016初 帯 J)

6月18日に続く~


 今日、荻窪「ささま書店」で3冊。
 店頭で、D・M・ディヴァイン『兄の殺人者』(創元推理文庫)と
フレッド・ホイル『10月1日では遅すぎる』(ハヤカワ文庫)。
 店内で、ミシェル・フーコー『フーコー・ガイドブック』(ちくま学芸文庫)。



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by byogakudo | 2017-06-17 20:42 | 読書ノート | Comments(0)
2017年 06月 15日

山田風太郎『わが推理小説零年』読了

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 『IV 風眼帖』の『風眼帖 (8)』より引用する。
 『風眼帖』は、1971年~1973年にかけて講談社『山田風太郎
全集 月報』に連載された自伝的エッセイ。『風眼帖 (8)』には、
山田風太郎の(旧制)中学生当時のできことが記される。

< さて、母が亡くなってから、私にとっての闇黒の十年が
 始まる。
 [略]
 支那事変の末期、太平洋戦争のはじまる直前で、日本は
 異様な時代でもあった。何しろ町の饅頭(まんじゅう)屋に
 中学生が饅頭を買いに入っても殴られる。いわんや映画など
 とんでもない話で、映画館に入る姿を見るとすぐ「補導協会」
 とかいう組織で、町の人々が学校に密告するという騒ぎで
 あった。徳川時代は国民総隠密とでもいうべき時代であったが、
 考えると太平洋戦争以前もその通りで、ひょっとすると日本と
 いう国は現代でも同じかも知れない。
  また毎朝、授業の始まる前に東方遥拝、それから軍人でもない
 のに軍人勅諭を朗唱させられる。
 [略]
  今の時勢から見ると、きちがい沙汰だ。そしておそらく今の時点
 からのみならず、どう考えたってノーマルではない。昭和十年代は
 国民総発狂時代と断定してまちがいはない。
  そのころは私は「おかしいな」と漠然と感じてはいた。当時
「映画ファン」という[注:「映画朝日」の記憶違い]、
 [略]映画雑誌があって、
 [略]昭和十四、五年ごろであったと思うが、それに「中学生と映画」
 という論文を投稿した[略]。
 これは読者欄ではなく、堂々二頁見開きで掲載された。要するに、
 中学生にも映画を見せろ、そんなことは何でもないじゃないかと
 いう趣旨であったと記憶しているが、
 [略]
 私の中学だけでなく全国どこでも同じような現象があったからで
 あろう。むろん本名ではたちまち処分を受けるから__実際は
 どうであったか疑問だが、中学三、四年でそういう危険を感じた
 のはわれながらいたましい。同年配の方ならそういう配慮を諒と
 されるであろう。__このときはじめて「山田風太郎」という変名
 を使った。>(p312-314)

 馬鹿/気狂いどものおかげで、歴史が愚かしく再生される。


     (山田風太郎『わが推理小説零年』
     ちくま文庫 2016初 帯 J)



呪 亜屁沈臓/呪 共謀罪=ネオ治安維持法/呪 吐爛腐/





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by byogakudo | 2017-06-15 13:29 | 読書ノート | Comments(0)
2017年 06月 11日

松葉一清『集合住宅__二〇世紀のユートピア』を読み始める/(3)風太郎『秀吉はいつ知ったか』に追記

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 『まえがき 集合住宅にユートピアを求めて』より__

< 一九八〇年代以降、ポスト・モダンの流れのなかで、
 「集合住宅団地」は画一性を批判され、暮らしを無味
 乾燥なものに貶めた張本人と指弾された。
 [略]
 モダニストは「ユートピア」の夢を語らなくなった。
  ユートピアンに賛同してモダニズムは隆起したはずだ。
 多くの若い世代が、モダニズムの始祖たるル・コルビュ
 ジエを信奉したのは労働者住宅を手がける社会性に共感
 したからだった。そこを忘却し、モダニズムを純粋幾何学
 に根ざした建築理念として、専門の枠内に囲い込んで純化
 して継承しようとするのは、「森を見る力」をなくした
 「木の凝視」への逃避でしかあるまい。
  もう一度、集合住宅を手がかりに「ユートピア」を探そう。
 [略]
 「公共の後退」のなかで、「夢物語」こそが無気力の支配する
 現実を打破する力を秘めている。>(p009-010)

 『第1章 軍艦島』は職住近接、「社宅」の島である。25棟の
集合住宅が「都市計画」もなく、夢想家たちの「施し」「慈善」
でもなく、「技術」的に存在した。

<「三十号棟」が「鉄筋」に替えて、ワイヤーロープを解体して
 縒り合わせたものを使ったことが明らかにされている。これは
 海底炭坑の掘削・維持のための技術を、最初のコンクリート
 住宅建設に応用したもので>ある。(p030-031)

 いちばん低層で3階建て、最高層が9階建ての「社宅」には
エレヴェータがない! その代わり、
<屋外階段が、複数の鉄筋コンクリートの建物に取りつきながら
 昇降している[略]。
 もともと、きちんとした住棟配置の計画があったのなら、そんな
 ものなどつくるはずがない。
 [略]
  住民が悠々と行き交えるような幅広い半屋外の廊下もあれば、
 上下階を中庭の空間で結ぶ階段も執拗なまでに設えられている。>
(p033)

 都市計画はないけれど、技術と工夫がある風土、日本。
 
     (松葉一清『集合住宅__二〇世紀のユートピア』
     ちくま新書 2016初 帯 J)

~6月10日より続く

 山田風太郎は『秀吉はいつ知ったか』で、歴史に関すること
だけでなく、都市の美についても何度となく語る。ヨーロッパ的
都市計画がない、ごちゃごちゃした街並を、彼は厭う。

 『今昔はたご探訪__奈良井と大内』の大内で、茅葺き屋根
の住宅群を見る。

< ただ、みものである茅の屋根群のなかに、近年変えたらしい
 赤や青のトタン屋根がいくつかある。プレハブの建て増しを
 やっている家もある。これが甚だ目ざわりであり、残念だ。>
(p281)

 茅葺き屋根に混じったトタン屋根は、わたしも目ざわりに感じる
だろうが、しかし東京なんぞの、ごちゃついた街並の中に在る錆びた
トタン板のもたらす哀愁は、悪くないと思う。むしろ好ましい。

 木造モルタルで夢見られる王国は永遠に、美に到達しようとする
意志の運動であり続ける、ともいえるし、丹下健三の電通ビルや
代々木第一体育館に見られる雄の意志と隣り合うにふさわしい、
日本的なるものではないか。
 左右対称を破り、不完全さを意図する日本の心性とも、図らずも
合致してしまう(じゃないか)。

 山田風太郎はヨーロッパ的・幾何学精神の持主だ。忍法帖は
二項対立的に存在する二つの勢力の争闘譚であり、後の明治もの
にしても二項対立の物語構造である。不完全さに、あるいは不足に
美を感じる日本的心性とは真反対な、完全美を求める。

 彼の子ども時代から青年期が戦争の時代であり、幼くして(若く
して)両親を失ったことが、規範秩序を求める思い、幾何学精神に
至ったのではないかしら、とも考える。


     (山田風太郎『秀吉はいつ知ったか』
     ちくま文庫 2015初 帯 J)



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