カテゴリ:読書ノート( 2311 )


2017年 02月 06日

松岡和子 訳『シェイクスピア全集8 テンペスト』読了

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 写真は2月4日(土)の神田須田町界隈で。週末のあの辺は、
観光地になっていた。スケソウダラの配給を待つみたいに、
おそば屋さんに列を作る人々...。

 やっと『テンペスト』読了。噂に違わず、かっこいい!
 たしかにジョン・ファウルズ『コレクター』の二人は、
キャリバンとミランダだ。

キャリバン 確かに言葉は教えてくれた。お陰さまで
 悪態のつき方は覚えたよ。疫病でくたばりやがれ、
 俺に言葉を教えた罰だ!>(p41『第一幕 第二場』)

__『コレクター』に於ける階級差の問題が浮かび上がる。

 しかし、ウィリアム・ワイラー『コレクター』は、配役ミス
とも言えそうな...いや、それは映画版『サイコ』にアンソニー・
パーキンスを当てないで、ロバート・ブロックの描写通りの
ルックスの役者を配するみたいな間違いを犯すことか。
 悪役が主役であっても、観客が感情移入できるルックスで
ないと、誰も見てくれない。
 だから、テレンス・スタンプを選んだのは分るけれど、ただ、
公開当時にあの映画を見た日本の若い女は(ほぼ)全員、テレンス・
スタンプだったら誘拐されたい、ずっと二人きりで暮らしたい、と
望んだ。みんな、彼をキャリバンではなくプリンス・チャーミング
と了解したのだった。これは、ストーリーに影響を及ぼす配役ミス
ではないかしら?

 ミラノ大公であったプロスペローが策略に遭って追放されたとき、
ただひとり秘かに味方したナポリ王の老顧問官、ゴンザーローの
語る理想国家論は、モンテーニュに基づいていると脚注がある。

ゴンザーロー その国では、万事この世とは逆さまに
 事を運びとう存じます。まず一切の商取引は
 認めません。役人の肩書きもなし。 
 学問は教えず、富も貧困も
 労役も皆無。契約、相続、
 境界線、地所、田畑の耕作、ぶどう畑もなし。
 金属、穀物、酒、油の使用を禁じ、
 職業もなくし、男はみんな遊んで暮らす、みんなです。
 女も同様ですが、ひたすら純粋無垢。
 君主もなくし__>(p63『第二幕 第一場』)

__"俺たちはけっして働かないだろう"というルフランが
時々差し挟まれる鈴木創士氏の詩『帝国は滅ぶ』は、この
理想国家が割れた鏡に映った像だろうか。

 プロスペローは高潔な被害者ではあるけれど同時に、
植民地主義者の側面もやはり在ると感じる。不粋なこと
言っちゃうが。
 プロスペローとミランダは、先住民であるキャリバンを
搾取してきた事実がある。プロスペローの魔法は肉体労働
には使えなかったから、仕方なかったのかもしれないが。
 また、プロスペローとミランダには、父が娘に抱く近親姦的
イマージュも、やはり感じる。

 細かい疑問点はいくつも出てくるけれど、台詞のかっこよさは、
もうなんとしよう。

プロスペロー [略]
 余興はもう終わりだ。いまの役者たちは、
 さっきも言ったように、みな妖精だ、そしてもう
 空気に融けてしまった、希薄な空気に。
 だが、礎(いしずえ)を欠くいまの幻影と同じように、
 雲をいただく高い塔、豪華な宮殿、
 荘厳な寺院、巨大な地球そのものも、
 そうとも、この地上のありとあらゆるものはやがて融け去り、
 あの実体のない仮面劇がはかなく消えていったように、
 あとにはひとすじの雲も残らない。我々は
 夢と同じ糸で織り上げられている、ささやかな一生を
 しめくくるのは眠りなのだ。[略]>
(p128-129『第四幕 第一場』)

 エピローグで、プロスペロー役者が素に戻って、観客に語り
かける異化効果もかっこいいし。ほんとになんともすてき。


     (松岡和子 訳『シェイクスピア全集8 テンペスト』
     ちくま文庫 2000初 J)

 p141(『第五幕 第一場』)のプロスペローの台詞、
<だが、この荒々しい魔術は
 この場で捨てる。>で思い出した、メアリー・スチュアート
『この荒々しい魔術』も、読むべき、読んだほうが楽しい?



呪 吐爛腐/呪 心臓亜屁/





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by byogakudo | 2017-02-06 21:53 | 読書ノート | Comments(0)
2017年 02月 05日

鈴木創士氏のコラム『第83回 すべての帝国は滅亡するだろう』

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 今月の鈴木創士氏のコラムは、第83回 すべての帝国は滅亡するだろう





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by byogakudo | 2017-02-05 13:56 | 読書ノート | Comments(0)
2017年 02月 04日

(2)ジェームズ・アンダースン/高田恵子 訳『ジェシカおばさんの事件簿 ホリデー殺人事件』読了+α

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~2月2日より続く

 原稿を書き上げたジェシカ・フレッチャーは、第二話『ジェシカ、
犬と遊ぶ』で、ケンタッキー州の友人を訪ねる。女友だちは"ラング
リー屋敷(マナー)"と称する館に住み込んで、障害競技用の馬の訓練
をしている。

 大金持ちの雇い主が殺され、遺産相続人のひとりも殺されと、
事件が続く。ミステリ作家として、本の上でも実生活上でも名探偵
ぶりを発揮するジェシカなので、もちろん彼女が謎を解くけれど、
お屋敷に飼われている犬がとても可愛い。

 ジェシカをゲストとする夕食が終わり、みんなでコーヒーを飲んで
いると、
<ドアのそとで犬がけたたましいほえ声をあげはじめ、会話が中断
 させられた。
 [略]
  「あら、わたしならかまいませんから、どうかいれてやってください」
 ジェシカはいそいで言った。
 [略]
 ドアをあけたとたん、犬が飛びこんできた。生後半年くらいの、元気の
 いいビーグル種の子犬だ。はずむような足どりで、まっすぐにデントン
 [注:屋敷の主人]のところへかけ寄っていった。[略]
  「やあ、テディ、いい子だ。元気にしていたか?」 [略]
  テディが小さくワンとほえて、いきおいよくしっぽをふった。>
(p210-211)
__この後も嬉しそうに、みんなに挨拶して廻り、

< テディはみんなが自分のことを話しているのがわかるらしく、自分が
 話題の中心になっていることをよろこんでいるようだった。得意そうに
 人間たちを見まわしながら、しきりにしっぽを床にたたきつけている。
 [略]
 しかし、話がまたほかのことへ移ってしまうと、テディははいかにも
 たいくつそうに寝そべって、眠ってしまった。>(p212-213)
 
 楽しく読んだ。残りの訳本を探して読もうとまでは行かなかったが。
  

     (ジェームズ・アンダースン/高田恵子 訳『ジェシカおばさんの
     事件簿 ホリデー殺人事件』創元推理文庫 1987初 J)



 2月2日付け梟通信〜ホンの戯言に、東京MXテレビと東京新聞・
論説副主幹、長谷川幸洋の関係が記されている。
 長谷川幸洋の正体は、出世欲だけの日和見主義者だ。なさけない。
東京新聞はなぜクビにしないのかと思っていたが、
<すでに定年になっていて、委嘱契約だった>とは知らなかった。

 アメリカって、ちゃんと三権分立している。すばらしいなあ。
 トランプの大統領令(イスラム圏七カ国からの入国を禁止する)が
憲法違反だからと、シアトルの連邦地裁が、全米での大統領令の一時
差し止めを決定した。

 日本も自称、"三権分立"だけれど、そして地裁レヴェルでは市民の
側に立つ判決もないわけではないけれど、上級の裁判所に行けば行く
ほど、露骨に政治権力の仲間意識を反映した判決になる。



呪 吐爛腐/呪 心臓亜屁/





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by byogakudo | 2017-02-04 22:11 | 読書ノート | Comments(0)
2017年 02月 02日

(1)ジェームズ・アンダースン/高田恵子 訳『ジェシカおばさんの事件簿 ホリデー殺人事件』半分+α

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 写真は昨日の東大駒場で。クリムトの風景画みたいな、
ちょっとした梅林。

 『ジェシカおばさんの事件簿』、むかしTVでやっていたのは
覚えているが、見たことがない。
 これが原作で、TVドラマ化されたのかと思って買った後で、
逆の事態、ノヴェライゼーションだと知ったけれど、なんとなく
楽しそうというヤマカンが、今のところ当っている。ノヴェライ
ゼーションは普通、がっかりするものだけど、何だって例外は
ある。

 近年、目にした連続TVドラマの作劇は、たとえば"Lie to me"
みたように、一話でひと筋のストーリーを語るのではなく、ふた筋
の話を同時進行させ、絡ませて、最後に終結させる構成だと思うが、
このデュプレックス傾向は、1980年代半ば以降の流行りの語り口
なのかと、ようやく知った。
 たしかに、ひとの生は、いくつものできごとに取り巻かれているから、
かつてのハリウッド映画みたいに、あるひとつの視点から語れるもの
ではない。リアリズムの形式としてデュプレックスが採用されるように
なったのだろう。

 第一話『ジェシカのミステリ講演』の前に『プロローグ』がある。
 書出しは、ジェシカ・フレッチャーが現在書いているミステリの
一部分だ。
 原稿を手直ししているところに手紙が届く。別々の土地からの
招待だ。書き終えてない原稿を抱えて、彼女はシアトルに行き、
『ジェシカのミステリ講演』が始まる。

 大学でミステリの歴史、ミステリと普通の小説との相違・同質点
などについて講演する場面では、論説の触りの箇所が直接話法で
記述される。まるまる全部、聞いてもいいよと読者に思わせるのが
作者、ジェームズ・アンダースンの腕前だろう。

 そうしているうちに、まるで関係なさそうな殺人事件がふたつ起きる。
名探偵が現れるところ、殺人事件あり、というテーゼは健在である。?
 ジェシカ・フレッチャーは集中力を発揮して原稿を仕上げ、優れた
人間観察力と合理性とで真相を見抜き、解決して、第二話『ジェシカ、
犬と遊ぶ』に進む。

 巻末に『検証・ネオ本格 3 ネオ本格の現状と未来』と題された
討論会が載っている。ジェシカ・シリーズの前2作から続く討論会
らしい。"ネオ本格"って、わたしの感覚では"メタ・ミステリ"の一種
に聞こえるけれど、ちがうかしら?


     (ジェームズ・アンダースン/高田恵子 訳『ジェシカおばさんの
     事件簿 ホリデー殺人事件』創元推理文庫 1987初 J)

2月4日に続く~


 わがままな虚人、トランプを見習ってか、いや国家権力を握ったのは
こちらが早い。安倍晋三・類の無茶ぶり、共謀罪はどう繕って見せても、
憲法が担保する思想・信教の自由、表現の自由を侵害する。
 法律を作る理由がころころ変わる代物に正当性なぞ、ない。
ただひたすら、権力をもつ側にとって使いやすい法律を作りたい、という
願望だけだ。


呪 吐爛腐/呪 心臓亜屁/





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by byogakudo | 2017-02-02 21:14 | 読書ノート | Comments(0)
2017年 01月 31日

吉田健一『吉田健一対談集成』読了

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 おお、2017年分のひと月が終わる。老い先がますます縮小される。


 漫画家・近藤日出造との対談『やァこんにちわ』(「週間読売」
1954年11月28日号)より。

吉田 青年殉国靖国神社隊とかなんとかいうのがありますがね。
 あんなの、なにを考えてやがるんだろうな。今年は日の丸の国旗が
 定まった百年祭とかなんとかで、全国なんとかケッキせよ、というん
 でしょ。バカバカしい話ですよ。
 近藤 いくらか勉強はしてるんですね。日の丸の由来ぐらいは......。
 愛国心を買い占めたような顔をしてね。
 吉田 だれが本当の愛国者か、ということですよ。国を愛したら勉強
 しなくちゃならない。勉強してたら、あんなバカなことしてるひまが
 ないよ。二十代の身空で殉国靖国神社隊とかなんとかいうのは、よほど
 頭が悪いんだね。おそらく酒の飲み方も知らないね。飲んで醜態を演じる
 やつなんだ。
 近藤 飲めば詩吟......。
 吉田 世界で、もっとも野蛮な声楽......。
 近藤 そして剣舞がはじまる。
 吉田 五・一五でも二・二六でも、可哀そうに無学文盲だったから、
 だまされたんですからね。
 近藤 世間知らずのお人よしなんですよ。>(p48-49)


     (吉田健一『吉田健一対談集成』 講談社文芸文庫 2008初 J)



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by byogakudo | 2017-01-31 21:57 | 読書ノート | Comments(0)
2017年 01月 29日

(4)河盛好蔵『回想の本棚』再読を始める

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~2008年3月11日より続く

 いちおう懸念して検索してみた。2008年の春浅いころ、
読んでいる。やっぱりか、という思い。衝撃の忘却力だ。
 どこに反応しているかを見てみる。おんなじ箇所。死んでも
治りそうにない性格らしい。

 明日は一日中、用事がある。早く寝なくっちゃ、と思いながら
ぐずぐずしてるのだろう。


     (河盛好蔵『回想の本棚』 中公文庫 1982初 J)

2月9日に続く~



呪 吐爛腐/呪 心臓亜屁/





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by byogakudo | 2017-01-29 20:33 | 読書ノート | Comments(0)
2017年 01月 28日

(2)鮎川哲也『サムソンの犯罪』再読・読了

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 楽しく読み終わった後で、もしかしてと検索・確認してみたらば、
2010年5月29日に、既に読んでいるじゃないか。

 引用しようと思った箇所も似たり寄ったり、アシモフ『黒後家
蜘蛛の会』を思い出すこともおんなじ、そして、しっかり/すっかり
忘れきっていた。
 我ながら凄いなあ。

 今回の付箋は、以下のページに挟んでいた。

<人殺しのあった家はいやだといって家政婦がいきたがらぬもの
 だから、それに代わって学生アルバイト斡旋協同組合連合会東京
 事務局城南支部より派遣されたのだそうだ。>
(p40『中国屏風』)

< 駅の西口の改札口をぬけると、商店街をとおって淀橋の浄水場へ
 むかった。[略]
  二、三年前に廃止された浄水場の更地に、あたらしくビルや高層
 ホテルが建ったものの、場所によっては空地として放置されたところが
 ある。桐山吾平の小さな住居は、この空地に、三方をかこまれて孤立
 した形で建っていた。>(p79『割れた電球』)

__この風景描写を読んだときに、やや既視感を覚えたが、それ以上
なにも思い出さず、疑念も抱かず読み進んだのだ。この短篇集では、
訪ねて行った先のドアは大抵、ロックされてない。訪問者は試しにノブ
を握ってみて、死体に遭遇する。

< 三田尻は日劇のそばの階段から地下におりると、地下鉄銀座駅で
 荻窪ゆきの電車に乗り、中野坂上で乗りかえて終点の方南町で下車
 した。そして後も見ずに地上にでて、すぐ鼻の先のマンションに入った。>
(p144『菊香る』)

< 編集者の鈴木千吉は池上線の池上駅で下車すると、くず餅屋がならぶ
 商店街をぬけて、本門寺(ほんもんじ)のほうへ向かって少し急ぎ足で歩いて
 行った。>(p185『屍衣を着たドンホァン』)

__池上線・全沿線踏破、やってない。

< 「[略]この大時計というのはグランドファーザーズ・クロックと称する
 大型の振り子式時計で、[略]。
 柱にぶるさげるんじゃなくて、壁をバックに、床の上に立てておくんだ」
  ことわっておくけれど、ぶるさげるとはぶらさげるの謂(いい)である。
 この法律家は東京生まれの下町育ちだから、ときどき妙な日本語を
 つかう。>(p191『屍衣を着たドンホァン』)

< 小村のマンションは渋谷区代官山のはずれにある。七階建てのお伽噺に
 でてくるような屋根のとがった建物で、彼の部屋は一階のいちばん奥まった
 一画であった。窓をあけると、目の下を山手線がとおっている。>
(p242『走れ俊平』)

__(部屋にはもちろん死体があるのだが)訪問者は、このドアの錠が下りて
いるかどうか試さない、珍しいケース。

 『黒後家蜘蛛の会』ではレストランで会食しながら謎が提出され、会員たちが
それぞれの解釈を述べ、最後に神のごときウェイターにより、正解が語られる
パターンだ。
 『サムソンの犯罪』では、そこまでの形式化はされず、名探偵・バーテンダー
の推理が、いつも最後に来るとは限らない。

 前者はレストランが舞台であり、メンバーも生活には困らない層。犯罪とも
いえない"謎"が多いので、読後感は和やか・穏やかだ。
 後者は、殺されるのはプチブル層、犯人視されるのは、あまり豊かではない
人々(が多い)、調査に当るのが貧乏・私立探偵というパターン(だが、いっこう
に暗くない)なので、読後感がかなり違うことに今回、気がつく。

 前作『太鼓叩きはなぜ笑う』も読もうかしら。わたしが推理しなくても名探偵
が説明してくれるし、何より湿気がなくて楽しい。

 
     (鮎川哲也『サムソンの犯罪』 創元推理文庫 2003初 J)



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by byogakudo | 2017-01-28 22:16 | 読書ノート | Comments(0)
2017年 01月 26日

(4)久生十蘭『久生十蘭「従軍日記」』ほぼ読了+荻窪散歩('17/01/25)

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~1月24日より続く

 戦争は国家が自国民を人質にとることで起きる。人質にされた
側は反抗すれば殺される(少なくとも不利益になる)と理解する
ので、あきらめて大人しく国家の暴力に従う。不本意ながら従う
のは面白くない。だから、頭の中で合理化する。

 すばらしい国なんだ、我々はすばらしい国民なんだ、だから国家に
従って行こう、他国との戦争は、やつらは醜悪なのだから襲って当然、
こちらが劣勢になっても、いや、このすばらしい国家が我々を率いて
いるのだから、我々はいつか勝つのだ等々、国民のほぼ全員が洗脳され
ているので、個人と国家という抽象的な機構(母国!)との間に齟齬は
来さない。敗北の日まで、蜜月は続く。

 より小規模な閉鎖状況であれば、途中で、自分がストックホルム症候群
に陥っていると自覚する瞬間もあるだろうが、お隣もその隣もと、同調の
渦の中にいると、なかなか気づけない。

 久生十蘭は折角、南方に従軍して来たのだからと、前線の視察を志願する。
 第四章から第八章まで、前線基地での日記である。着いた翌晩から空襲だ。
防空壕に避難しなければならない。壕の中で隣の兵士と同じ恐怖を体感する。
脅えながらも、まるでシェル・ショック中毒みたように、次の前線に赴く。
 電信兵が告げる敵機の降下角度が、直接「鉤括弧」で記されるのが効果的
だが、角度とか何機襲来とかは軍の記録に残されるのかしら、それを翌日に
でも見せてもらって、"従軍日記"に書いたのだろうか?

 そんな感想を抱きながら読んでいたら、ふっと、国家神道に洗脳された
ストックホルム症候群、と浮かんでくる。安倍・でんでん・晋三の憧れの
国家形態...。


     (久生十蘭『『久生十蘭「従軍日記」』 講談社文庫 2012初 帯 J)


 昨日(1月25日)は一昨日よりは少しましな気温だったので、近場、
荻窪まで地下鉄で行き、大田黒公園辺りからささまに北上しようと。

 荻外荘の公園部分に廻ってみる。建物部分はまだ入れない。公開
準備中だ。「防空壕の場所をご存じの方、情報を提供ください」と
掲示あり。

 ささま書店の外で、鮎川哲也『サムソンの犯罪』(創元推理文庫)、
河盛好蔵『回想の本棚』(中公文庫)。中で、鹿島茂『文学的パリ
ガイド』(中公文庫)、『日本探偵小説全集8 久生十蘭集』(創元
推理文庫)、吉田健一『旅の時間』+『吉田健一対談集成』(講談社
文芸文庫)、ジャン=ルネ・ユグナン『荒れた海辺』(筑摩書房)、
ピンチョン『ヴァインランド』(河出書房新社)。



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by byogakudo | 2017-01-26 21:26 | 読書ノート | Comments(1)
2017年 01月 25日

鈴木創士『文楽かんげき日誌 「死と人形」』

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 年初の現代思潮新社コラムに続く、2017年最初の鈴木創士氏
『文楽かんげき日誌 「死と人形」』
 人(ひと)と人形(ひとがた/にんぎょう)との関係、あるいは
生と死のあわい。





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by byogakudo | 2017-01-25 19:42 | 読書ノート | Comments(0)
2017年 01月 24日

(3)久生十蘭『久生十蘭「従軍日記」』第二章・読了

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~1月23日より続く

 『第二章 サランガン湖畔
(自 昭和18=1943年4月22日/至 昭和18=1943年6月1日)。
第一章の沈滞ぶりから一変。俄然、面白くなる。

 涼しい山間の地、サランガンに移って、熱帯性・懶惰症候群から
回復するかと思ったら、伏兵あり。久生十蘭は、植民地症候群みた
ような、占領地の長官に見込まれてしまう。

 遠く日本から離れて過ごす長官は、さみしがりやのニッポン男児。
近代そのもののような男である。

 内地から滞在に来てくれた日本人というだけで嬉しいのに、"久生十蘭"
というネームヴァリュー付きの阿倍正雄氏と知り合えたのだ。長官は十蘭
のために、ありとあらゆる歓迎興行を催す。第一章の終わりで、ヒトラー
誕生日に開校する独逸人小学校のオープニングに、十蘭が仏蘭西語で祝辞
を述べることを酔った勢いで引き受けたのが、つき合いの始まりだ。

 囲っている芸者を着飾らせて見せびらかす田舎代議士にも似て、長官は
様々なレセプションを催し、彼の支配地をあちこち案内し、自分は名士と
親しいのだと、部下や占領地の人々に知らしめる。と同時に、傲慢な振舞、
過剰な接待をすることで、十蘭に自分の権力を見せつける。

 いつも過剰で、病的な焦燥感にあふれる、長官とのスラップスティック
な交流の様子は、ぜひ本文で。

<君のためならなんでもしてやる、とか、おれのものはみな君にやる
 とかとたびたびくりかえす。この異常な友情をどう受けとめていいか
 わからずマゴマゴす。これがもし直率というならわれわれの世界に
 ないことで応対に苦しむなり。>(p148)

 長官は、やたらと久生十蘭に身体的接触(手を握り、肩を抱くようだ)
をしてくる。十蘭は閉口するが、彼の親切のおかげを蒙っていると自覚
するので、邪険にもできず、ずるずる、つき合う。せっかく涼しい湖畔の
地に来たのに、昼間は視察と見学に追われ、夜は不眠症の長官とのビリ
ヤードに費やされ、仕事は月末にやっと、まとめて書く。

 長官は、どう見てもホモ・ソーシャルの域を越えて、ホモ・セクシュアル
と思えるが(本人は無自覚の様子)、久生十蘭は(感じていても)この言葉
を日記に記さない。名づけることでそれを実在させると、無意識に分っている
からだろうか。
 
 日記中の自称は"おれ"、他人(ひと)から呼ばれるときの呼称は"久生さん"
と書かれる。久生十蘭の中で"阿倍正雄"は、先祖の霊の守護を願うとき、
くらいにしか現れないのではないかしら。このアイデンティフィケーションは、
さすが久生十蘭、面白い。


     (久生十蘭『『久生十蘭「従軍日記」』 講談社文庫 2012初 帯 J)

1月26日に続く~



呪 吐爛腐/呪 心臓亜屁/





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by byogakudo | 2017-01-24 21:44 | 読書ノート | Comments(0)