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2011年 03月 31日

ドロシイ・S・デイヴィス「暗い道の終り」/メアリ・インゲイト「堰の水音」読了

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 前者は1960年代末、ニューヨークの下町に暮す助任神父が主人公、
後者は、1920年代をイングランドの田園地帯で過ごした娘の手記の形を
とる。

 「暗い道の終り」は、神父の悩み方がいい。ヴェトナム戦争が続き、
街にはヒッピーの溜まり場、ゲイの溜まり場が見られ、貧乏人街の喧噪と、
お金持ちたちのエレガントな生活とが同時進行する時代に、カトリックの
神父として勤めるとはどういうことかと、彼は悩む。

< 「つまり、この世におけるキリストの代理人になり、人々が正しい
 行いをするように教え、助け、挫(くじ)けたときは力づけ、その弱さを
 許すことだ」その言葉は自分にとって、ひどく空(むな)しく聞こえた。
 激しく鳴る心臓の鼓動にくらべて、何と弱い言葉だろう。>(p173上段)

 彼の教区で殺人事件が起こり、臨終に居合わせた主人公・マクマハンが
警官と話すシーン__

< マクマハンは、「ブローガンさん、なぜ警官をしているんです?」
  若い刑事は顔を赤くした。「徴兵のがれですよ。わたしは、自分なりの
 法と秩序を守りたいんです」>(p36下段) __こんな時代である。

 被害者は、時代と関係なく、アウトサイドして描きたい絵を描き続けた
画家だ。ビートなキリストにも思える。
 彼がどんな人であったか、何を考え、どう行動したかを、絵描きの死に
よって彼を知った神父と残された人々とが考える部分が、むしろミステリに
なる。ミステリの主軸は、加害者の殺す理由にはない。
 わたしにとってはストレート・ノヴェルだった。
     (HPB 73初)

 「堰の水音」は、古き良き美しきイングランドの田園風景、そこに建つ
ミル・ハウスという館の情景が、いちばん書きたかったのではないかと
思わせるミステリ。ストーリー的には因果もの、だろうか。
     (HPB 76初)





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by byogakudo | 2011-03-31 13:15 | 読書ノート | Comments(0)
2011年 03月 30日

欠落こそ我れ

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 昨日、岡崎武志さんが訪ねて下さった。「女子の古本屋」文庫版
増補のために、ということだが、「女子」って、こちらは志賀直哉式に
いえば「バールフレンド」すなわちバーサンなのですが。いいのかしら。

 久しぶりでお目にかかったが、少し疲れていらっしゃるように
お見受けした。地震以来の疲労、停電による執筆時間調整などが
影響されているのでは? どうぞ、お体にお気をつけ下さい。

 夕方には古書伊呂波文庫さんと電話でしゃべる。彼もまた、あれ以来、
いつも通りに仕事をしているのに、なんだか違うと訴える。

 関東地方で地震に遭った人々は、東北の被災者に比べれば、ごくごく
軽微であっても、みんな、多かれ少なかれ、自分の中に、ある欠落感を
かかえてしまったのだと思う。

 あれを体験したことで、自身をかたち作ってきた時空間に埋めようの
ない欠落が生じ、空虚感はいつかは弱まるとはいえ、なくなりはしない。
 欠落が自分そのものであると認識するしかない。
 生きていること自体が、喪い続けることではあるけれど、大地震が
それを身体的に実感させた。欠落を我が身に認めよう。

 また岡崎氏の話題に戻れば、Sがミュージシャンであったことは納得
されても、わたしが「何もして来なかった」ことに不思議そうだった。
 やりたいことも成りたい大人像も何もなく、フーテンのまま生き延びたら、
そこには「古本屋」という職業がぽつんと残されてあった、というだけなの
ですが、やっぱり変かしら。

 世界とわたし自身、わたしの感情とわたし自身。どちらも遠いまま、
乖離感だけ実感して生きてきた。





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by byogakudo | 2011-03-30 13:39 | 雑録 | Comments(4)
2011年 03月 29日

春のきざし

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 昨日のけやき橋商店街の路地ねこ、です。

 また寒い日があるかもしれないけれど、少し暖かい日が続くと、
ほっとする。昨日は陽射しの中で、ヴェロニカやムスカリ、ポピーが
咲いているのを見た。

 東北に早く春が訪れますよう。 





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by byogakudo | 2011-03-29 16:14 | 雑録 | Comments(0)
2011年 03月 28日

ねこ日和

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 風邪っ気を飛ばすために、ごく近所の散歩をしようと、Sが言う。西新宿で
店で飲むコーヒー豆を買って、中野坂上から中野新橋、DVDを借りて戻る
コースである。

 昨日一昨日とは変わって陽射しが暖かく、自ずとゆっくり散歩できる。
少し神田川沿いに歩き、けやき橋商店街を通る。昭和の商店街だが、
いつまでこの空気が保(も)つだろう。

 路地の先に大きなヒマラヤ杉が見えたので入って行くと、古いモルタルの
アパートメントと、手入れのされてない庭がある。奥には廃墟となった洋風
一軒家(屋根が朽ちている)。
 クロトラが、捨てられた箱の上で日向ぼっこしている。Sが写真を撮ったら、
どれどれとフェンスの隙間から出てきた。距離を保って、目の前でこてんこてん、
転がる。今日はねこ日和だ。

 けやき橋商店街を出ると、もう大通り。コーヒー豆を買い、中野坂上方向へ
裏道を行く。あちこちで、ねこの姿。

 宝仙寺裏手の道を取る。
 「むかしは、両側とも煉瓦塀が続いてて、春先なんか良かったよ、煉瓦が
暖まってるんだ」とSの言う細長い道は、もうかつての面影はない。
 山政醤油醸造所の煉瓦塀が、さびしい公園に申訳程度に残されている。
公園デザイナは、いないのかしら。いても規約がうるさ過ぎて、どこも似たり
寄ったり、植栽や池が設けられていても、わびしくさびしい、愛されてない
空間になるのか。

 DVDを借りてから、森秀貴氏の新介護事務所を訪問。お忙しい中、展示
作品の説明をして下さる(モダーンアート・コレクターなので、ギャラリー
みたいな介護事務所になる)。お手洗いにあった、フレスコの小作品が
60~70年代調でよかった。

 3時間くらい歩く。





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by byogakudo | 2011-03-28 18:37 | 雑録 | Comments(0)
2011年 03月 27日

「野球殺人事件」「日本人が築いてきたもの壊してきたもの」「マッド・サイエンティスト」読了

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 「野球殺人事件」(田島莉茉子 岩谷書店 51初) にはオマケとして
「賭屋」という短篇がついている。長篇と似たような設定の野球賭博
ミステリだけれど、入れなかった方が良かったんじゃないかしら。

 合宿所でも麻雀流行りなのでルーキーが眠れなくて困るというと、
それならばと、クスリをもらう場面__

< 一つはアドルムといつて睡眠剤、一つはゼドリンといつて覚醒剤、
 眠る時はアドルム、仕事をする時はゼドリンをやると、少々さわがしく
 ても問題ではないという。ゼドリンは二色あつてこれは効く方だなどと
 効能書を説明した。>(p285)

 監督や先輩からは、
< 「有難そうに押しいただいているが、そりや、何のまじないや」>とか、
< 「ヒロポンじやないか、それをやりだすときりがないそうだぜ」>(p288)
と注意される。こんなとこばかり読んじゃって。


 「日本人が築いてきたもの壊してきたもの」(生方幸夫 新潮OH!文庫 01初 帯 J)
によれば、研究用の原子炉は廃止措置が取られたことがある。

 原子炉を廃止するには、「密封管理方式」「解体撤去方式」「遮蔽隔離方式」 
の三方式が定められているが、

<密封管理方式とは原子炉から核燃料や放射性物質を取り除いた後、施設を
 閉鎖し、放射線や人の出入りを管理する方法をいう。
 解体撤去方式は原子力施設の全てを解体撤去し、跡地を再利用できるように
 更地にすること。
 遮蔽隔離方式は放射性物質を取り除いた後、施設全体をコンクリートやアスファルト
 で固めてしまう方法だ。>(p228)

「JR1」という小さな研究用原子炉が、<実験が終わったので放射能の処理をした後,
もとあった場所の横に深い穴を掘って原子炉を埋め、上からコンクリートで密封>(p229)
という遮蔽隔離方式で廃止された。


 2月16日から読みかけて中断していた「マッド・サイエンティスト」(S・D・シフ編 創元推理
文庫SF 82初 帯 J)も思い出して読了。

 (前に書いたこととダブるけれど)ジョゼフ・ペイン・ブレナン「スティルクロフト街の家」、
リチャード・クリスチャン・マシスン「あるインタビュー」(臓器移植問題)、ヴァンス・アーン
ダール「シルヴェスターの復讐」(肥満の人体実験)、ゲイアン・ウィルスン「アーニス博士の
手記」(長寿の実験)、デニス・エチスン「最後の一線」(これも臓器移植問題)と、17篇中
5篇も好みの短篇が入っていた。





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by byogakudo | 2011-03-27 13:48 | 読書ノート | Comments(0)
2011年 03月 26日

からっぽ

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 今週の新着欄です、よろしく。
 新着欄


 少し風邪気味のSにつき合っていた病院の待合室で、ふっと気づいた。
うつろになっていると。

 3・11から二週間、TVに映される海嘯の痕の風景を見ても、「消えた街」
という言葉に置き換えるだけになっている自分に気がつく。生き延びた人々が
避難所暮しの苦痛を耐えているのも、頭で理解できるだけ。感情が伴わなく
なっている。
 いや、それは地震当日からそうではなかったか。

 日々伝えられるおびただしい数の死者と被災者の数字は、個々のひとびとを
捨象し、天災を前にして、わたしは思考停止状態で立ちすくむ。死者への
哀悼の思いも、被災者に抱く悲しみも嘘ではないのに、それがわたしの感情
であると実感できない。感情とわたし自身との間に、距離がある。

 巨大地震と大津波に続く現在進行形の原発事故で、わたしの現実認識力は
許容量を超えてしまい、原発事故の行く末を見守ることにしか反応できなく
なっている。

 神戸の1・17や関東大震災の震度から見れば、わずかなものでしかない
地震だったのに、恐怖がわたしの中に根を下ろし、はびこっている。それ故の
無反応状態であろうと認識することで、いまの自画像をデッサンする。ほんとは
間違った自己分析かもしれなくても、なんらかの自分の輪郭線を欲している。
そこからしか始められないので。





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by byogakudo | 2011-03-26 13:25 | 雑録 | Comments(0)
2011年 03月 25日

田島莉茉子「野球殺人事件」のみ読了

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 (又してもエキサイトブログが不調。投稿できるかしら?)

 写真は先週の中野の住宅地で。バロック風鏡が表に出されたのも、
地震のせいだろう。

 大岡昇平を読んだからか、「野球殺人事件」(田島莉茉子 岩谷書店
51初)に手を伸ばす。

 なんでしょう。1951年刊のメタミステリと言えばよいのか。

 戦後盛んになったプロ野球界と、それにつきまとうカケ屋疑惑が発端で、
麻雀とダンス、キャバレ、レヴュー小屋、映画館にはひとが詰めかけ、「東京
浮き浮き」なんて流行り唄も出てくる、戦後風俗満載のディスカッション・
ミステリだ。

 野球選手が殺され、野球賭博の仲介者の噂がある新聞記者も殺され、
連続殺人事件であるが、語り手の新進作家は、これは「グリーン家殺人
事件」型か「黄色い部屋」型かなぞと悩んで、担当警官やカケ屋疑惑の
問題を打ち明けた野球選手と討論している__みんな、翻訳ミステリ・
ファンなのか?__のでメタミステリかと思ったのだが、風俗小説と
割り切って読んだ方が楽しめるだろう。





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by byogakudo | 2011-03-25 14:20 | 読書ノート | Comments(0)
2011年 03月 24日

生方幸夫「日本人が築いてきたもの壊してきたもの」半分強

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 高度経済成長裏面史ともいうべきノンフィクション。米軍戦車の
スクラップ(東京タワーの一部となった)から始まる、解体業・
高野工業所が経済成長に伴走して壊してきた、ビルや工場の物語が
語られる。

 フランク・ロイド・ライトの帝国ホテルも壊し、オバケ煙突も
壊してきた歴史をもつ高野工業所。もう少し先には原子炉解体の
話が出てくる。

     (新潮OH!文庫 01初 帯 J)





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by byogakudo | 2011-03-24 13:09 | 読書ノート | Comments(0)
2011年 03月 23日

人間的?

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 都内の水道水から放射性物質が検出された。→ミネラルウォーターを
買い占めなきゃあ!→水道が復旧していない被災地や、乳幼児のミルクを
溶くためのミネラルウォーターが消える。

 こういう馬鹿馬鹿しい連鎖が日常だとしたら、人間であることから
降りたくなる。まあ、これまでも世間から外れて生存してきたのだけど。
 角を曲がって消えちゃいたい。





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by byogakudo | 2011-03-23 13:53 | 雑録 | Comments(0)
2011年 03月 22日

大岡昇平「成城だより 3」読了

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 買取り本にあった「成城だより 3」(大岡昇平 文藝春秋 86初 帯 J)読了。
そのうち第2巻も入るだろうがしかし、大岡昇平もまた、エッセイしか読んで
いない。

 自伝「少年」だったかしら、昔、読んだことがある。渋谷はほぼ全域、
大岡昇平のシマだと覚えている。
 いまの「文化村」辺りがたしか、彼の出た大向小学校跡、遠足には代々木
八幡に出かけた、だったと思う。それしか覚えてないのが、ひどい。

 「成城だより 3」は戦後40年の1985年の記録。心臓を患う75歳だが、
体調に気を使いながらも好奇心は旺盛だ。少女マンガに読みふけり、
5歳の孫娘から、そんなに読んでどうするの?と聞かれて、一瞬言葉に
詰まり、「少女マンガ、描くんだ」と応える。

 ルイーズ・ブルックス復権の記事も多い。わたしも彼が監修した写真集を
持っていた。地下室への水漏れで喪ったけれど。

 敗戦記念日近い頃、日航機が御巣鷹山に墜落したときでもある。
 9月1日付けより引用__

< 一、半官半民の日航はその処置混乱、にせの発表により、問題外の
 みそを付けた。[以下略]
  二、ボーイング社、かかる規模の事故は機体構造に関するはずなのに、
 真剣に取組む姿勢示さず、不誠実かつ傲慢なり。それに対して抗議できない
 運輸省、日航は情ない。  
  三、[略]
  四、自衛隊機スクランブル、[中略]役立たずの本質暴露せり。ただし隊員は
 よくやった。アナはずっと黙っていたが、戦場へ行った者にはぴんと来る屍臭の
 中で、よく働いた。指揮官悪し。
  五、[略]>(p193~194)

 いつになっても大事故が起きると同じような対応になる。





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by byogakudo | 2011-03-22 13:17 | 読書ノート | Comments(0)