猫額洞の日々

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2005年 11月 08日

森茉莉付近 (4)

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 安原顕「まだ死ねずにいる文学のために」(筑摩書房 86初)は72年~76年と、
81~82年の7年間「レコード芸術」誌に連載したコラムを一冊にまとめた書評集だ。
 この中で、75年8月刊、「甘い蜜の部屋」が取り上げられている。以下、適宜
抜粋してみる。

   ぼくも昔から森茉莉のファンで、・・・今度まとめて・・・読み通してみて、
  やっぱりこれは今までの日本文学にはあまり類のない異色の傑作だと思った。

  中でもぼくは大正期の東京山の手の富裕な家庭のひとり娘である主人公の
  牟礼藻羅(モイラ)という美少女の外面と内面が実に生き生きと描かれて
  いることに感心させられた。

  この小説の最大の魅力は、リアリティにみちた事物の細部描写と、各々が
  お互いの気持を十二分に承知した上で行動する、その心理分析の見事さだね。

   まあ森茉莉という作家は、日本では三島由紀夫と並ぶ心理小説の名手だと
  ぼくは思うね。

   三島氏といえば、森氏の『恋人たちの森』の少年パウロが恋人の死を忘れる
  くだりを評して <女性は決してこのような残酷で明澄なナルシスムに達する
  ことがない。それは男性のもつ最も奥深い秘密である筈だが、それを女性の
  作家が発掘したというのは、驚くに堪えん出来事である。文句なしに傑作>と
  書いたことがあったことを思い出すけれど、森氏もこの作品は氏が最も敬愛して
  いた室生犀星と三島由紀夫の二人には読んでもらいたかったんじゃないかな。

   今の文壇ではこういう作品はまったくといっていいほど受け入れられない
  けれど、もし三島氏が生きていたら彼が選考委員をしていた谷崎賞かなにか、
  とにかく大きい賞を文句なく取っていたと思うと、まったく森氏にとっても
  われわれファンにとっても三島氏の死は大きいね。

  ぼくが驚かされるのは、『甘い蜜の部屋』が書かれたのは氏が六十二〜
  七十二歳までの十年間ということだろう、その年齢の彼女がこういう
  磨き上げられた文体でこれだけ人間心理が複雑に絡み合う世界を築いたという
  ことなんだな。

  でも実際の森茉莉氏は服装はもちろんなりふりかまわずだし、下北沢の
  信じられないボロ・アパート(失礼!)に住んでいた頃は、パンを持っていて
  一日中近所の喫茶店で仕事をしていて、そこのマスターにイヤな顔をされていた
  という話は有名なくらい、いわば男でいえば無頼的な生活をしているのね。
  そういう実生活と小説の人工的な世界とのギャップなんだな、ぼくが
  驚かされるのは。それは彼女が常に小説の世界でしか生きていないと
  いうこと・・・なんだろうな。


 森茉莉がなりふりかまわずには、見えなかったのですが。いわゆる百貨店で売ってる
既製服の着こなしでは、ありませんけれど。


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# by byogakudo | 2005-11-08 16:34 | 森茉莉 | Comments(0)
2005年 11月 07日

テクニカラーな朝

だった。
 少し早め 10時半に部屋を出たら、いきなりの陽射しと突風に見舞われる。街路樹の
木の葉が砕けるように舞い散り、トーンの狂った青空だ。雨上がりの光に視力が
やられそう。ヒチコック「ハリーの災難」みたいな陽射しだ。

 ヒチコック・ベスト3を考えながら店へ。順不同で「めまい」「裏窓」そして
「ハリーの災難」かしら? ベスト5にすると「サイコ」「救命艇」が入る、
アンソニー・パーキンスとタルーラ・バンクヘッドが好きなので。

 Sが昨日の本を引き取りに行ってくれた。あれこれ値段を考えては、
手入れしたり、ネットに上げるか検討したりで一日が暮れる。
 安原顕「まだ死ねずにいる文学のために」(筑摩書房 86初帯)に、
森茉莉「甘い蜜の部屋」の批評がある。感じのいい批評文なので紹介したいが、
今日は遅くなったので、たぶん明日。
 (でも、菊池信義の装幀って、どこがいいのだろう? 装幀意図の解説ばかり
聞こえて来るようで鬱陶しいのに。)


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# by byogakudo | 2005-11-07 16:08 | 雑録 | Comments(0)
2005年 11月 06日

やっぱり心配なので

「禁映画本・ジャズ本」のお客さま宅へ向かう。文庫棚だけでなく、捨て雑誌置場も
拝見。
 伺ってよかった。(昨日に引き続き)新着欄に載せる本が4点も見つかった。
他に画集も頂くことにしたが重いので、明日Sに取りに行ってもらうことにする。

 雨が本格的に降り出し、店内の静けさが いや増す。不安がつのる。もはや・・・?
同時に、神は待ち望めるけど、お客は待てないなぞとヤクザな台詞も頭に浮かぶので
メゲきってはいないのでしょう、きっと。

 「わが文学生活」(大岡昇平 中公文庫 81初)読了。翻訳小説によって自己決定が
なされた世代は、大正期にティーネイジャーだった大岡昇平の世代から70年代までと
大雑把には言えるだろうか。戦争中に思春期だった人々は、どうなのか? 軍国少年・
少女以前に翻訳物の児童文学に触れているだろうから、同じだろう。
 いまは翻訳小説が読まれないようだけれど、ほんとに自足しきれるものかしら?


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# by byogakudo | 2005-11-06 18:31 | 雑録 | Comments(0)
2005年 11月 05日

「ハリスおばさんニューヨークへ行く」

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 書き忘れていたが、文庫版のジャケット画・挿絵・カットは 上田とし子である。
愛らしい。途中から飛ばし読み。もう少し違うタッチを期待していたのだけれど__
タイトルを例によって忘れているオグデン・ナッシュ(?これも自信がない)の
アメリカ人一家のパリ旅行ものみたいな感じかと予想していたが、やや教訓調?

 ミステリのお師匠さんがいらっしゃる。ブリーン「もう生きてはいまい」の話を
したら、やっぱり他のブリーン作品も持っておいでだ。今度貸して頂くことになった。
最初の3~4作はしっかり書かれて面白いけれど、あとはユルくなるそうです。パズルを
作るみたいな本格派は、そうそう秀作ばかりは続かない、ということだろうか。

 今日は晴れて散歩日和。静かな日々が続きすぎて くたびれ果てている、
週の始まりの亜種古本屋です。モチヴェイションを探せ!


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# by byogakudo | 2005-11-05 14:42 | 読書ノート | Comments(0)
2005年 11月 04日

森茉莉さんとお茶を (4)/「わが文学生活」+「ボク宝」

の昨夜。「ボク宝」は勿論 みうらじゅん(光文社文庫 99初) です。鹿島茂の解説も
素晴らしい。
 ところで、シルヴィ・ヴァルタンとバルタン星人とは ほんとに同じルーツを
持つのだろうか?

 シルヴィ・ヴァルタンで思い出した。彼女が自動車事故で一命を取り留めたことを
森茉莉さんにお話したら、
 「あんな綺麗な人は、むしろ死んじゃった方がよかったんじゃない?」
 「いや、整形手術で前と同じ顔ですけど」とお答えしたけれど、わたしが間違って
いた。後年の彼女の顔は やはり不自然だ。
 整形手術で成功したのはナンシー・シナトラくらいではないか。退屈な醜女顔から
エキセントリックな醜女顔になったのは、整形外科医のセンスがよかったのか、頼んだ
彼女のセンスの賜物か? 近頃ならグィネス・パルトロウの整形もいいセンスだ。

 大岡昇平もちゃんと読んでいるが、今夜もたぶん手に入れたばかりの「ハリス
おばさんニューヨークへ行く」(ガリコ__ポール・ギャリコ__講談社文庫 80初)と
同時進行だろう。


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# by byogakudo | 2005-11-04 20:45 | 森茉莉 | Comments(0)
2005年 11月 03日

減煙報告

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 月曜・火曜と一日4本、昨日は5本に達した。たぶん一日4本までが、今のところ
ベストな本数だ。3本では、食後に一服が許されている服役者?みたいな気分になり、
5本まで吸うとニコチンへの感激がなくなる。
 すっぱり禁煙された方によると、煙草を止めたら味覚が戻り、お米の一粒一粒の
おいしさが味わえるようになられたそうだが、ゼロ本でないから味覚変化がないの
かしら? 特に食欲増進もなく、食事がおいしくもなっていない。
 でも減煙のせいだか、煙に弱くなりました。吸い始めにむせやすい。なんてことだ。

 昨夜から大岡昇平「わが文学生活」。彼が自伝「幼年」を書き終え、「少年」を
連載中に行われたインタヴュー集。そういえば、自伝や評論集は読んでいるのに、
まだ大岡昇平の小説を読んだことがなかった。


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# by byogakudo | 2005-11-03 12:45 | 雑録 | Comments(0)
2005年 11月 02日

「映画本とジャズ本は駄目よ」の

お客さま宅へ追加の買出しに。少し風邪気味でいらした。
 文庫本の棚につい眼が行く。ここからも追加 買入れ。河野典生のジャズ小説が
あるので、思わず「河野典生って何だか読んでて気恥ずかしくなりませんか?」と
お訊ねすると、彼もそうだと仰る。何故なのだろう、ほんとに。

 ミュージシャン・ヒゴ ヒロシさんがお友だちといらっしゃる。11月26日(土)に
国立 地球屋でライヴとのこと。詳細は彼のサイトでご覧下さい。
 今夜は新宿ピットインでライヴだそうです。

 ミステリ短篇集「密室大集合」が進まない。中断して、今日頂いてきた「わが文学
生活」(大岡昇平 中公文庫 81初)と「じゃがたら紀行」(徳川義親 中公文庫 80初)を
持って帰ることになりそうだ。
 既に一度チェックさせて頂いている本棚だけれど、まだ見落としがありそうで
気になる。もう一回お邪魔したいが、お引っ越し間近だから、もう遅いかしら?


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# by byogakudo | 2005-11-02 17:26 | 雑録 | Comments(0)
2005年 11月 01日

また短篇ミステリ集に戻り、

じわじわ読んでいる。ヘレン・マクロイの長篇の元になったものとか、あれこれ。
まだ、これぞと唸る短篇はない。

 以前HP日記の時にも書いたが、どなたか「深き森は悪魔のにおい」と短篇
「風邪を引かないで」以外のキリル・ボンフィリオリをお持ちの方、
いらっしゃいませんか? (この2作しか翻訳されてないのだろうか?) 
 長篇を翻訳・出版してくれる奇特な方・出版社を心から待ち望みます。
ほんとに恰好いい小説家なのに、何故 出版されないのかしら? 大ベストセラーは
無理でも、出せば反応のあること、請合います。

 書き忘れていましたが、10月19日付けの「書斎の復権」は売れました。

 もう11月。持ち時間が少ない。


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# by byogakudo | 2005-11-01 15:02 | 雑録 | Comments(0)
2005年 10月 31日

「東京の地霊(ゲニウス・ロキ)」読了

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 面白かったけれど装幀に疑問。平置きしたときを考えたデザインだろうが、
菊池信義風?に「ひらの文字」下に影が付けてあったり、「ひら」四隅が
ジャポニスムめいた意匠で縁取られていたりするのが、果たしてふさわしいかしら?
 何か違うという感じがする。

 後記に「ゲニウス・ロキ」と「アニマ・テラーエ」の概念の違いについて
述べられている。
 「ファウスト」第一部 冒頭に現れる「地霊」はErdgeistであり、錬金術的な思想に
連なる 大地そのものの力のことであり、この概念はAnima terraeに結びつく。つまり
Erdgeist「地霊」は場所・locusではなく、大地・terraに至る概念だそうである。
 これに対し「ゲニウス・ロキ」は、
 「ある場所の『雰囲気』がそのまわりと異なっており、ある場所が神秘的な特性を
持っており、そして何か神秘的なできごとや悲劇的なできごとが近くの岩や木や
水の流れに感性的な影響をとどめており、そして特別な場所性がそれ自体の『精神』を
もつとき」、そこに「ゲニウス・ロキ」の存在が認められるそうなのです。

 シャンとしない要約・引用で申訳ない。要は、日本の翻訳の歴史上、大地の力を
意味する「地霊」がまず作られたので、同じく「地霊」と訳すしかなさそうな
場所性の概念・「ゲニウス・ロキ」は、「地霊」と書いて「ゲニウス.ロキ」と読んで
下さい__って要約でいいのでしょうか? どうも頭が廻らない。

 装幀だけ見ると、わたしには大地性の「地霊」が感じられて仕方ないのです。たぶん
タイトル文字の影のせいで。


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# by byogakudo | 2005-10-31 15:55 | 読書ノート | Comments(2)
2005年 10月 30日

眠い日

 寝不足の訳ないのに眠い。Sも眠いと言う。何なんでしょう? 垂れ込めた曇り日の
せい? 昨日のような雨の日の方が、もっと眠いだろうに、何かする力が出ないまま
時が経ち、夕方になっている。

 旧聞だが、10月26日付け東京新聞朝刊に、東京中央郵便局庁舎の保存を求める
話が出ていた。
 わたしも又、郵政民営化に反対し続けているが、反対理由の一つが中央郵便局の
存続問題にある。全国一律料金制度が保てず、過疎地の銀行支店なぞ ありえないからと
いう、大前提は勿論だけれど、丸ビルが殺された今、清楚なモダーニズム建築の中央
郵便局まで失われることに耐えられない、という理由が実はいちばん大きい。

 東京駅の写真を撮りに行った時、何枚か撮っている内に、たしかに あの屋根は
仮普請だと実感した。丸屋根 復元の動きがあることは嬉しいが、煉瓦の東京駅を背に
左手、優しく清潔な中央郵便局が存在する美しさに うっとりしていたことがある。
右側にはまだ、頭部に不思議な彫像群を抱く 日本工業倶楽部もあリ、正面は丸ビル。
 ああ、思い出すと だんだん腹が立ってきて、いけない。東京オリンピック時に
遡って立腹すべきだろうか、もっと近く、中曽根民活路線に改めて怒りを燃やすべき
でしょうか。戦後の日本史を全部、否定しなきゃいけない気分・・・。

 東京中央郵便局の保存を求めている DOCOMOMO(ドコモモ)日本支部代表が
鈴木博之・東大大学院教授。「現代の建築保存論」に近代建築保存運動は連戦連敗の
歴史であると記されているが、中央郵便局が初めての1勝になることを、祈ることしか
できない亜種古本屋は心から祈る。


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# by byogakudo | 2005-10-30 17:37 | 雑録 | Comments(0)