猫額洞の日々

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2017年 09月 07日

シーリア・フレムリン/直良和美 訳『泣き声は聞こえない』読了

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 イギリスでの原作刊行は1980年。

 思いがけない妊娠をしてしまった14歳の少女・ミランダが家出する。
家出の理由が、大人は分かってくれないではなくて、両親ともにリベラル
(父親は労働党の役員か何か)過ぎて却って息が詰まる、というか、まあ、
そんな感じ(ユーマ・サーマンの育った家庭があまりにリベラルなので、
反抗期の自己表現として、チア・リーダーになることしか選択肢がなか
った話も思い出す)。

 リベラリズムが限界に達し、サッチャリズムの時代が始まりつつあるが、
まだ福祉国家の意識の方が強い。そういう時代状況を反映して、家出した
少女を救ってくれるのは、共同生活を実践している若い医学生だ。
<「ぼくといっしょに、先祖代々の古い家に来ないかい? 別名スクワット
 っていうんだけど。[略]」>(p75)

 医学生の行動では、彼も手帖ではなく、封筒にノートする派!だ。
< ポケットから、使用済みの封筒を出すと、連絡をつけられる電話
 番号を、時間帯別に書いてくれた。九時半から十一時:外来、十一時
 から十二時半:解剖室、十二時四十五分から一時半:小食堂、といった
 一日のスケジュールだった。>(p86)

 まだ福祉国家的であるのは、語られるだけで直接には登場しない
(ので、どうも絵空事っぽい印象になる)、少女の兄・サムの生活ぶり
にも窺われる。

 サムはやりたいことが見つからず(見つけたいという欲望も見えない)、
大学も何となく中退して__

<両親の家にいすわることに心底満足しているようで、昼日なかまで
 ベッドにもぐってい、ポピュラーミュージックのレコードをかけ、
 そしてたまたま知りあった女の子と手軽に恋愛をすませるという
 具合だった。
 [略]
 夫妻は、自分で生活をするようにとの最後の望みを託し、家の最上階
 を独立したフラットに改造したが、サムは自分の新しい城に誇りも
 興味も持たず、片付けもそうじもしないで、汚れて荒れるにまかせ、
 [略]
 近所のカバブ[略]ハウスで持ち帰り用の料理を買ってきては、以前と
 同じように両親のテレビの前にいすわって食べるのが好きで[略]>
(p62-63)

__日本での引きこもりとはちがうようだ。引け目を感じないで
いられるので、鬱屈の挙句、家庭内暴力を振るったりはしない。
個人主義的でいられるって、いいじゃないかと、こちら側では思う
けれど。

 "ポピュラーミュージックのレコード"という大まかな言い方を見ると、
シーリア・フレムリンは(クラシックはどうか知らないが)音の知識が
少ないのではないかしら。
 妊娠に気がついた、1980年ころの14歳の少女が、自分の赤ちゃんの
将来を想像するときの描写__

<まさにこの瞬間、ニッカーのウエストゴムのほんの一インチか二インチ
 下では、細胞の最初のかたまりが集まりつつある。シェークスピアを
 読み、ベートーベンやエルヴィス・プレスリーを聞き、「ウェストミン
 スター橋の上で」を暗記するのに備えて。>(p31-32)

__1980年の作品で、ビートルズですらなく、エルヴィス・プレスリー?!
編集者もポップスやロックに疎くて、時代考証が甘くなったのかしら。
 お兄さんのサムが、ヒッチハイクしてインドに行っているという設定も、
歴史物ではない現在時ミステリとしては、やや時代感覚的なズレを感じるが。

 少女期の憧れや期待、自意識の在りようなど、よく出ているけれど、
ミステリとしても風俗小説としても、『夜明け前の時』の方がすばらしい。
 (2016年8月27日/2016年8月29日)


     (シーリア・フレムリン/直良和美 訳『泣き声は聞こえない』
     創元推理文庫 1991初 J)




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# by byogakudo | 2017-09-07 16:20 | 読書ノート | Comments(0)
2017年 09月 06日

(3)川本三郎『荷風好日』読了

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~9月2日より続く

 『第三部 時の中で』の『空襲による「恐怖症」』では、戦後の
つまり晩年の荷風の作家としての衰えには、シェルショックが
あったのではないかと推測されている。いま風にいえばPTSDか。


 1945年3月10日、東京大空襲で偏奇館を消失(荷風、65歳)。
同日より、代々木駅西口近くの杵屋五叟の家に寄宿。

 4月15日、菅原明朗と永井智子の住む東中野・国際文化アパート
に引越す。
 5月25日、山の手大空襲により国際文化アパート、消失。避難する
際、1m近いところに直撃弾が落ちる。
 同日、菅原明朗・永井智子と荷風は、杵屋五叟の寄宿先・代々木の
鈴木薬局を訪ねるが、ここでは断られ、駒場の宅孝二の家に行く。

 6月2日、菅原明朗・永井智子と荷風は、菅原の故郷、明石市に向かう。
 6月3日、明石の西林寺に落着く。
 6月9日、明石も空襲に遭う。爆心地からは4kmあるが爆風が甚だしい。

 6月12日、菅原明朗の知人が多く、宅孝二も来ている、岡山に疎開。
宅孝二の知人の家、岡山ホテルの後、弓之町の旅館「松月」に落着く。
 6月29日、菅原明朗・永井智子が留守の真夜中に、岡山の大空襲。
地理がよくわからない中、ひとりで河原に逃げる。

 旅館「松月」が焼けたので、菅原明朗・永井智子・永井荷風は岡山市の
北、空襲の被害のなかった巌井三門町(みかどちょう)の武南(たけなみ)家
に寄宿。ここでの荷風は、明らかにシェルショック状態だ。
 永井智子の手紙によれば、
< 「[略]あのまめだつた方が横のものを建[ママ]にもなさることなく 
  まるで子供の様に わからなくなつてしまひ、私達の一人が昼間
 一寸用事で出かけることがあつても、「困るから出ないでくれ」と
 云はれるし [略]>(p182)

 どんなに散歩で脚を鍛えてあろうと、いまから72年前の65歳(年末
には66歳になる)は、十分に老人だ。逃げる先々で、荷風を待っていた
かのように空襲がある。おかしくもなるだろう。

 まだ地方に疎開する前、駒場の宅孝二の家に住まわせてもらっている
ころの記述に差し挟まれる一節__

<荷風の愛読者である安岡章太郎によれば、当時、焼け出された被災者は、
 無事だった人間から見ると災いをもたらす者のように思われて、肩身の
 狭い思いをしていたという。>(p177-178)


 やっと戦争が終わり、生まれて初めて、自分の書く原稿料だけで
生活費を稼ぎ出さなくてはならない、荷風の戦後が始まる。65歳に
して、初めての自活だ。
 

     (川本三郎『荷風好日』 岩波現代文庫 2007初 帯 J)


 以前、単行本で川本三郎の荷風関連本を読んだのにタイトルが
思い出せなかったが、検索して発見。
 「荷風と東京『断腸亭日乗』私註」(都市出版)だった。
 
 (2008年5月6日)
 (2008年5月7日)
 (2008年5月8日)
 (2008年5月10日)
 (2008年5月12日)




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# by byogakudo | 2017-09-06 16:50 | 読書ノート | Comments(0)
2017年 09月 05日

鈴木創士氏のコラム『第90回 戦争と麻薬』

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 2017年9月の鈴木創士氏のコラムは、『第90回 戦争と麻薬』

<(本稿は、残念ながらさる左翼系の新聞によって掲載を拒否
 された「戦争と覚醒剤」という文章が元になっていることを
 お断りしておきたい)>





 田辺貞之助の体験した関東大震災と、彼が目撃した日本人・
自警団と警察等による朝鮮人、中国人労働者虐殺の記述の引用。
及び、警察や労働ブローカーが自警団を煽って殺させたことが
解説されている__関東大震災と「新巻の鮭」

 千田是也・名の由来も思い出す。

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# by byogakudo | 2017-09-05 14:02 | 読書ノート | Comments(0)
2017年 09月 04日

ジャコメッティ展・最終日に滑りこむ

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 展覧会・最終日に行くのは原則、避けたいが、そうなって
しまったからには、しかたない。滑りこんだ。

 身動きは取れるけれど、最終日らしい混雑の中で立体を見る。
落着いて見るのがむずかしい混み方だ。観客はお互い、向かい
側から来る視線の延長や、両隣の気配を気にしつつ作品に対する。

 デッサンが多く来ているのがいい。紙面に枠組みを描き、その中
にデッサンする。空間と作品(立体)との関係が見える。細長い枠
いっぱいに人体が描かれると、まるで棺の中の風景だ。
 「書物のための下絵」シリーズの動きなど、フランシス・ベーコン
(1909年生まれ)より年上(ジャコメッティ、1901年生まれ)だ
けれど、同じような時間を生きてきたのだろうと感じさせる。

 六本木ではないところで、こんな大型・貸し画廊みたような建物
ではない空間で見られたら、もっとよかっただろうな。人嫌いが
亢進している。


     (ジャコメッティ展@国立新美術館/The National Art
     Center, Tokyo 2017/09/04)





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# by byogakudo | 2017-09-04 20:32 | アート | Comments(0)
2017年 09月 03日

池ノ上~駒場東大前

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 晴れている。出かけたい。でも日曜日だ。どこに行く?
 あまり電車に乗らず(乗ったとしても短時間)に着いて、
電車内も行った先も混んでなくて、しかも、まだあまり
歩いていない地帯...。

 すきまを探して、池ノ上から駒場東大方面。この近辺は
歩いているが、未踏の住宅地もあるだろう。

 青梅街道・東高円寺駅前で、約20分に1本の都営バスを待つ。
新宿駅西口~新代田駅行きの終点まで。井の頭線で池ノ上へ。
2:30pmころ着。
 池ノ上の商店街には「北沢八幡神社例大祭」の横断幕。法被姿
の中高年男性や浴衣の若い女性を見かける。

 駒場方向に行きたいが、なかなか右に曲る角に出ない。目の先に
ある木造住宅に、「木村畳店」の看板。これには見覚えがあるが、
いつ通ったのだろう?
 北沢1丁目2番地辺りの崖下道を過ぎ、世田谷区北沢児童遊園
(で、いいのかな?)に来たら、行き止まり。坂道を上って戻る。

 水道道路に出た。三角橋交差点を、駒場東大前に向かう。駒場
4丁目のビル一階に残る、元ガレージの配電盤の色彩のうつくしさ。
 東大生産技術研究所のモダーンスタイルの門扉(ブルーグレイ)も
いい。しかし、駒場東大前、未だ。

 陽射しが強いが湿気がないから歩いていられるが、少々疲れた。
お腹もすいてきた。休めそうな店は見当らない。ラーメン屋さんに
行列ができている。
 そのとき、道の向かい側に写真の店(グラフィオ/ビューロスタイル
が見えた。道を渡って行ってみる。疲れてるのに、目が誘惑された。
 モダーンスタイルの小物雑貨や家具のセレクトショップ。リーズナブル
な価格なのも、すてき。

 やっとハンバーガー店を発見。椅子が堅いのが難点だけれど、
お腹が充たされ、帰る元気が出た。グラウンドから入って、東大
駒場を通り抜け、井の頭線・駒場東大前駅へ。




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# by byogakudo | 2017-09-03 21:03 | 雑録 | Comments(0)
2017年 09月 02日

(2)川本三郎『荷風好日』半分

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~9月1日より続く

 『第二部 夢の中で』の『モダン都市東京と私娼__荷風
の作品を中心に__』では、戦前の恋愛事情と娼婦(プロ
からアマチュアへ)との関係が語られる。

<普通の若い男性が普通の若い女性と恋愛するという
 現代では当り前のことが戦前までは決して当り前では
 なかった。[略]若い男性は玄人の女性と疑似恋愛する
 しかなかった。>(p90)

 野口冨士男が丸谷才一との対談「花柳小説とは何か」
(『花柳小説名作選』集英社文庫、1980年)で語る__

< 「大正時代のぼくなんかの記憶でいうと、だいたい初恋の
 相手は、いとこなんですよ。里見先生のお書きになったもの
 など見ると、上流の家庭で童貞を失う相手というのは、年上の
 女中が多かったらしい。およそ男女交際というものがなかった
 それで男女交際がどこで行なわれるかというと、花柳界で行なわ
 れるわけで、ぼくなんかもそういう遊びをすることによって、
 やっと大人になったという気がするんです」(傍点・引用者)
 [注:孫引きではボールド表示]>
 [略]
  女性の立場からいっても「およそ男女交際というものがなかった」
 時代は窮屈きわまりない。いっそ若い男性と付合える玄人の女性が
 羨ましい。>(p90)

 幸田文『流れる」映画化にあたっての座談会で、田中澄江の
発言(「婦人公論」昭和31年12月号)__

< 「私どもは花柳界の女のひとに対して女として劣等意識を
 感じるんですね。女としては美しく磨かれていると思ったり
 して。それからまた、明治の初めから男と対等に話のできる
 のは、いいところの芸者衆だけだったでしょう。普通の家庭の
 奥さんは、何でもひっこめひっこめと言われて、世間は狭いし、
 いまだにそんなことでなにか劣等感みたいなものを感じる人も
 いるでしょうね」
  私娼はこういう「およそ男女交際というものがなかった」
 時代に生まれた、いわばひかげの花だった。>(p90-91)

 野口冨士男『私のなかの東京』(文藝春秋、1978年)では
私娼と公娼とが比較される__

< 「交渉も海千山千の妓夫太郎(ぎゅうたろう)や遣手(やりて)
 婆さんが中間に入る遊廓のばあいとはちがって本人との直接
 取引きだから、よしんば蔭にはどんなからくりがあるにしろ、
 中間搾取の不快さを眼の前で見せつけられることはなくてすむ。
 また、あまりにも伝統的で組織的な機構にがんじがらめにされて
 操り人形のようにしか感じられない無気力な公娼にくらべればの
 話だが、交渉の段階で相手の頭脳のよしあしもある程度まで識別
 できる。つまり、人間と対しているという、きわめて当然な手応え
 がある。[略]
 束縛されていないから、わずかながら世情にも通じている。
 [略]私娼はそれぞれの好みで、[略]日本髪に結っている者も
 あったが、洋髪で和装の者もいれば洋装の者もいて、その点
 でも時代の好尚に即応していた。遊廓にくらべれば、青年層を
 ひきつける力においてはるかに立ちまさっていたのである」>
(p88-89)

 近代化とは都市化であり、大衆化である。芸事などを仕込まれた、
ある種、特殊技能者である公娼はそれ故に、カジュアルな売春者・
私娼に需要を奪われる。
 労働の基本形態は売春行為だ。私娼の登場は、すべての労働者が
(どれほど高給を得ていようと)、つねに失職の可能性に直面する
現在、あらゆる分野において"プロ"と"アマ"の見境がつきにくい現在、
の到来を告げるかのようだ。
 すべての女は(可能性において)娼婦であり、すべての労働者は
(可能性において)失業者である。


     (川本三郎『荷風好日』 岩波現代文庫 2007初 帯 J)

9月6日に続く~




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# by byogakudo | 2017-09-02 21:39 | 読書ノート | Comments(0)
2017年 09月 01日

(1)川本三郎『荷風好日』1/3

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 『第一部 散歩ことはじめ』より__

<身分制度が厳としてあった江戸時代に、大の男が昼間から
 よその町をぶらぶら歩いていたとは考えにくい。[略]
 幸田露伴は随筆『一国の首都』のなかで、江戸時代、散歩は
 「犬川」と蔑視されていたと書いている。「犬川」とは
 「犬の川端歩き」、つまり無用のことの意味である。
  大佛次郎は『散歩』という随筆のなかで、江戸時代には、
 散歩など「はしたないことで、してはならぬ行儀であった」
 と書いている。ぶらぶら歩きなど遊び人か隠居のすることで
 まともな人間のすべきことではない。
 [略]大小を腰にさしている武士は歩くことになじまない。
 町人の家でも勤勉が尊ばれたから用のない外出は戒められた。
 [略]散歩は明治になってからということになる。大佛次郎は
 「散歩は、やはり西洋人が来て教えてくれた」「日本の武士
 で町によくぶらぶら歩きに出たのは、勝海舟である。父親の
 勝小吉が武士でも本所の遊び人だったせいだけでなく、やはり
 外国人の散歩の習慣に習ったのである」としている。
  [略]
  文学作品に登場する散歩者の早い例は森鷗外の『雁』の
 主人公岡田。[略]岡田は本郷台地の下宿屋に住んでいて毎日の
 ように無縁坂を下って、不忍池から上野広小路あたりを散歩
 する。途中、何をするでもない。[略]明治十三年ころの話で、
 鷗外はここですでに「散歩」という言葉を使っている。
  おそらく岡田は、[略]西洋文化としての散歩を受容したの
 だろう。また学生という一種の高等遊民として散歩を楽しむ
 余裕を持てたのだろう。
  [略]
  池波正太郎は『東京の情景』という随筆のなかで「むかしの
 東京・下町に住み暮らしている人びとはよほどのことがない
 かぎり、自分の住む町の外へ出て行かなかった」と書いて
 いる。町人に散歩はなじまない。生活環境的に余裕のある
 山の手の知識人が散歩を楽しむようになる。>(p43-45)

 たしか山田風太郎のエッセイに、戦時中、田舎に疎開した岸田
国士が畦道を散歩していたら、土地の人から非難がましい眼差し
で見られた、とかいう話があった。

 ともあれ、散歩は文明開化の、ハイカラな行為である。近代化
ならびに都市化と切り離せない行為だ。
 小学生の夏休み、夕食を終えると毎晩、祖父と散歩に出た。
彼を思い出すたびに「俺〜は村中で一番」と、漫画の吹き出しの
ように『洒落男』のフレーズが出てくる人だったが、子ども心に、
宵の散歩は祖父の東京時代に身についた習慣だと感じていた。


     (川本三郎『荷風好日』 岩波現代文庫 2007初 帯 J)

9月2日に続く~


 阿佐ヶ谷で用足し、中野にも用事があったので、久しぶりに
ブロードウェイ4F、まんだらけ海馬の108円・均一棚から3冊。
 重盛完途『庭の美しさ』(現代教養文庫)、シーリア・フレム
リン『泣き声は聞こえない』(創元推理文庫)、E・S・ガードナー
『そそっかしい子猫』(HPB)。
 最初の文庫本には、昭和36年9月6日付けの株式会社有隣堂
(横濱市中區伊勢佐木町1丁目22番地)・領収書が挟まっていた。

 用事がメイン、ついでに古本、移動はバスと電車。これは散歩
ではない。





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# by byogakudo | 2017-09-01 21:07 | 読書ノート | Comments(0)
2017年 08月 31日

(2)岡本綺堂・他『見た人の怪談集』ほぼ読了+丹生谷貴志氏のtwitter

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~8月30日より続く


 昨日の池田彌三郎『異説田中河内介』に見られた__

<話せばよくないことがその身にふりかかって来る>ので、
<前置きが終わり本題に入ろうとすると、最初に戻って>、
<話せば悪いことがあるなどということがあるはずもない、
 だから今日は思い切って話す>

__と繰り返すパターンが、最初から5番目、田中貢太郎
『竃の中の顔』にある。(初めの方にパターン例、終わりで
パターン分析という、よくできた編集なのに、ランダムに
読んでしまって申訳ない。)

 湯治に来ている武士が、宿の亭主と囲碁を闘わすが、
亭主が下手の横好きなので勝負にならない。
 ある日、通りがかった僧が対手(あいて)になると互角
である。毎日のように闘っていたが、僧が訪ねて来ない
ので山の庵を探し当てて訪ない、そこで怪異を見る。
 茶をふるまわれたが飲まずに温泉宿に戻った。

< 「今日は豪(えら)い目に逢うた。主翁(ていしゅ)、
 お前は彼(あ)の[略]坊主を、何んと思う』
  「何か御覧になりましたか」
  「見たとも。[略]たいへんなものを見たぞ」
 [略]
  「[略]それを云ってはなりません、[略]それをあなた
 が人に話すと、生命(いのち)がありません、[略]」
 [略]
  「[略]あなたはきっと不思議な目にお遭いなされた
 でしょう、何もおっしゃらずに、すぐ此処をお発ちに
 なるが宜しゅうございます、決して何人(たれ)にも
 云ってはなりません、そのことを云うと命にかかわり
 ます」>(p120-121)

 用心したにもかかわらず、武士は不幸に見舞われる。


 繰り返しは効果的だ。
 不穏な気配だけが繰り返し記述され、破滅への期待を高める
サルバドール・エリソンド「ファラベウフ」
 語ってはならぬという一言を繰り返して気を持たせる『異説
田中河内介』や『竃の中の顔』。
 同じ言葉を繰り返し差し挟むことで笑いを得るように、ギャグ
でも使われる。
 ひとつのパターンを少しずつ変えてゆく変奏曲や、空間現代
ある...。

 むかし読んで(まだ覚えて)いる佐藤春夫『化物屋敷』と
橘外男『蒲団』(こちらは、やや記憶が薄い)はパスして、
今回もまた泉鏡花に入れない。『海異記』の冒頭__

< 砂山を細く開いた、両方の裾が向いあって、恰(あたか)も
 二頭の恐ろしき獣の踞(うずくま)ったような、最(も)う些(ちっ)と
 で荒海へ出ようとする、路の傍(かたえ)に、崖に添うて、一軒
 漁師の小家がある。>(p44)

__で、目と脳が読むことを拒否する。この合わなさはどうしようも
ないんじゃないかしら。


     (岡本綺堂・他『見た人の怪談集』 河出文庫 2016初 帯 J)



 丹生谷貴志氏のtwitterより__

<余談。「神」という絶対消費対象の影が薄くなってだぶついた金銭は
 散財空間を求めて「アート」に消散の場所を見出しつつある。かつて
 大貴族が浪費の夜宴を発明したのに似る。「戦争」に「絶対の消費」
 を見出すよりはさしあたりまし。「アート」の花火的ショービズ化は
 当然の成り行き、嘆く理由はない。>
(17:13 - 2017年8月29日
https://twitter.com/cbfn/status/902685549504339968)

<余談。「浪費の空間」は論理的には完全な空虚であってもよいはず
 だが浪費の現象学は税制的にも(!)「対象」を必要とし、「空虚に
 果てしなく似た対象」は存在しなければならない。ともあれ「アート」
 は空虚に似た対象であればよく、それ自体造形意志などという死んだ
 「価値」を体現する必要はない。>
(17:38 - 2017年8月29日
https://twitter.com/cbfn/status/902691847033675776)

<余談。浪費の空間は論理的に言って空虚であるべきだが、浪費の
 現象学としては「対象」が必要となり、だから例えば「アート」が
 要請されるとして、それは「現象と化した空虚」であることを根源
 要諦とし、従ってアートは造形意志やらといった死んだ「価値」やら
 「使命」を内包する必要はまったくない。>
(0:14 - 2017年8月30日
https://twitter.com/cbfn/status/902791646609149953)

__これを読んで、たとえば自分の作品行為が"社会性"を帯びてない
ことを生真面目に悩む若いアーティストは、心が軽くならないか?





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# by byogakudo | 2017-08-31 16:22 | 読書ノート | Comments(0)
2017年 08月 30日

(1)岡本綺堂・他『見た人の怪談集』10/15篇+鹿島茂のレヴュー

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 全短篇15作(中篇に近いものもある)を摘まみ読みして、
10篇読了。
 帯には
<一番こわい話。/いやな感じがひたひたと、/圧倒的に怖い話。>
とあるけれど、読む怪談って怖いだろうか? 目の前で語られたら、
怖いかもしれない。

 子どものとき読んだ『バスカヴィル家の犬』は、とても怖かった。
けれども、あれは怪談ではなくミステリと呼ばれる。大人になって
読み返すと、大人だから当然そくそくする怖さは来ないで、ただ
荒れ果てた風景の描かれ方に惹かれるものがある。

 最後から二番目の収録、池田彌三郎『異説田中河内介』は、
< 田中河内介(たなかかわちのすけ)の話をしかけた男が、
 話し終えずに息絶えたという怪奇な話は>と始まる。

 徳川夢声によれば、その話があったのは向島・百花園である。
しかし、池田彌三郎の父によるヴァージョンでは、京橋の橋向こう
の書画屋・画博堂(がはくどう)でのできごとで、彼(父)自身が
そこに居合わせた、実見聞である、という。スペイン風邪が流行
した年とあるから、1918年か1919年だろう。

 お盆のころ、画博堂に集まった、いつもの連衆が怪談話に興じて
いると、
<誰からどうして聞いたのか、見なれない男がやって来て、私に是非
 話をさせてくれという。
 [略]
  その男は、田中河内介が寺田屋事件のあとどうなってしまったか
 ということは、話せばよくないことがその身にふりかかって来ると
 言われていて、誰もその話をしない。[略]
 本当のことを知っている人が、だんだん少なくなってしまって、
 自分がとうとうそれを知っている最後の人になってしまったから
 話しておきたいのだ、と言う。>

 ところがこの男の話は、前置きが終わり本題に入ろうとすると、
最初に戻ってしまう。

<河内介の末路を知っている者は、自分一人になってしまったし、
 それにこの文明開化の世の中に、話せば悪いことがあるなどと
 いうことがあるはずもない、だから今日は思い切って話すから、
 是非聞いてもらいたい。というところまで来ると、又いつか始めに
 返ってしまって[略]>(p261-263)埒が明かない。
 つい、林家三平の繰り返されるギャグ、<いづれの御時にか〜>を
思い出すが。

 ところが、一座の人々がそれぞれ用事で呼ばれて中座し、ちょうど
誰も聞き手がいなくなったときに、その見なれぬ男は死んでしまう。

 田中河内介・怪談(怪異)は実質的にここから始まる。波紋を描く
ように妙な話が連鎖し、怪談のパターン分析で終わる、なかなか
すてきな(怪談)話である。


     (岡本綺堂・他『見た人の怪談集』 河出文庫 2016初 帯 J)

8月31日に続く~



 鹿島茂による自由への道(岩波書店)レヴュー。
 彼は、<成熟拒否の若者たちをアホロートルと命名している>
が、レヴューは__

<若き日に読んだときは成熟拒否の弟マチウに肩入れしたが、
 いまでは兄のジャックが一番まともに思える。社会の全員が
 マチウになり、ジャックがいなくなってしまった時代だから
 かもしれない。新しい光源から光が当り、二一世紀的に蘇
 (よみがえ)ってくる二〇世紀の大作である。>

__と結ばれる。

 これは<時代が一回転したせい>だけでなく、読み手側の
成熟ないし加齢という条件があるからではないかしら? 
 内田百閒が漱石『虞美人草』について、かつては馬鹿にして
いた小野清三を、今ではその小心さを正直さと受けとめる、
とかいうようなことを書いていたと記憶するが。
 あるいは山田風太郎が、現在を末世ととらえる老人を、
なあに、ご当人(の肉体自体)が末世なのだと、からかって
いたのも思い出す。




呪 亜屁沈臓/呪 共謀罪=ネオ治安維持法/呪 吐爛腐/

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「共謀罪トンデモ答弁・暴言録」


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 上記のPDF





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# by byogakudo | 2017-08-30 20:29 | 読書ノート | Comments(0)
2017年 08月 29日

フレーザー/佐藤智樹 訳『エイブヤード事件簿 死利私欲』読了

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 どんな話だったかは覚えてないが、『汚名挽回』『陰画応報』
も読んでいるようだ。自分のブログを読み返しても、何ら記憶に
引っかからない。すごい。

 作者と合わないって書いていたのも忘れきって買ってしまった
のは、ジャケット・デザインの賜物だ。
 まあいいじゃないか、一晩それなりに楽しんだのだから。静かな
田園地帯だからこそ、小さな生態系だからこそ、底流にうわさ話
の花が咲き誇り花束として束ねられ、その内圧エネルギーが殺人
事件を起こすというパターンである。

 ニュースを見ていると、田舎で殺人事件が起きる度に、TVは
近所の人々の口から、
「こんなに静かな土地なのに」と言わせたがり、住宅地で起きて
犯人が分かれば、
 「おとなしそうな普通の人なのに」と言わせたがる。
 人間が住んでるから殺人事件が起きるのだ。南極大陸で起こす
のは、かなり難しい。


     (フレーザー/佐藤智樹 訳『エイブヤード事件簿 死利私欲』
     講談社文庫 1980初 J)

 

呪 亜屁沈臓/呪 共謀罪=ネオ治安維持法/呪 吐爛腐/

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# by byogakudo | 2017-08-29 15:24 | 読書ノート | Comments(0)