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三作目の長篇「嵐といふらむ」は、大名華族の妾腹の次男が
主人公。公家華族のお姫さまと、窮屈で非人間的な華族生活を
否定しよう、新しい生き生きした生活を目指そうと、意見が一致
したが、婚約後に赤紙が来る。
藩屏意識に燃える彼は、彼女を未亡人候補にしたくないので、
婚約破棄まで考える。けれども彼女は彼を待つ、と誓う。
復員した主人公は彼女を探し求めるが、愛の誓を失った彼女を
見いだす。そこに、彼を慕う無垢な下町の少女が現れ...たぶん
彼は再生するんでしょ。
読みながら、三島だったら、きっとお姫さまに視点をおいて
書くだろうと考える。先祖伝来の貧乏公家生活を憎み、豪奢な
生活にあこがれを抱く、ガッツいた、エネルギッシュな性格の
彼女の側にたって書いたら、敗戦後の混乱期を舞台にした、
もうひとつの「ジュリエット物語」になったかもしれない。
書かれなかった小説を夢想させる小説だ。
(角川書店 58初 函は第五巻)