2010年 09月 22日
click to enlarge. ~9月19日より続く 原作の発表は1954年。穏やかなSFだった。ちっとも悪くはない けれど、穏和すぎて、ときどき「さっさと話を進めないかなあ」と、 チリチリもした。 火星人の目を借りて、人類のヒューマニティについて考察する物語だ。 シニカルな火星人たちのおかげで天分が伸ばせず、引きこもりっぽく なった天才少年が、善き火星人に再会して生き直す。 感動的なエンディングである筈が感動しなかったのは、読者の責任だ。 この本の良さはむしろ、子ども心が描かれる箇所にある。 善き火星人は、天才少年の幼なじみの少女・シャロンと知り合う。 彼女は彼を信頼し、秘密の場所に連れてゆく。貧民街の見捨てられた 空家の台所だ。 < この台所の中に、大きな貧弱な建造物がほのかに姿を現わした。 古い木箱を集めて作った、家の中の家である。シャロンは「待って」 と言って、その建造物の中にもぐりこみ、マッチをすった。二本の 蝋燭がともる。「もうはいっていいわ」身をちぢめて中にはいり こむと、彼女は声をひそめ、厳粛ぶって、海のように青い目を巨大な 暗黒の中に沈ませていた。「あたしのほかには、まだ誰もはいった ことがないのよ__これはアマゴーヤなの」そして、明らかに思い なおし、同時にわたしを信用して大丈夫なのかと不安がって、こう 言った、「もちろん、これはまぎれもないメイク・ビリーヴだけどね」 (メイク・ビリーヴとは本物ではないのに本物だというふりをすること。) それはメイク・ビリーヴであり、同時にそうでなかった。ここには 祭壇があった。底を上にむけた箱である。その上の即製の棚には、 ぼろ人形と見まちがえそうな物がのっている。「アマッグよ」と シャロンはその人形らしき物にむかってうなずきながら言った。 「象徴だわ、前は人形だったんだけど。人形なんて子供っぽいでしょう。 そう思わないこと?」[以下略]>(p63) あるいは成人した後、善き火星人に再会した折りの会話である。 <歩道にあった特別な裂け目>、<くねくねした裂け目で、SとAの字を いっしょにしたように>見える裂け目から彼らの王国・ゴヤランティスが 幻視され、彼らはそこに生きたという思い出だ。 国際幻想文学受賞作と、J下端に記されているのは、こういう辺りで あろうか。 (創元推理文庫 67再 J)
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by byogakudo
| 2010-09-22 13:38
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