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猫額洞の日々

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2011年 07月 23日

アーウィン・ショー/常盤新平 訳「夏の日の声」読了

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 今週の新着欄です、よろしく。
 新着欄 

 50代になり少し老いを意識し始めたロシア系ユダヤ人男性が、野球を
している息子の様子を眺めながら過去を振り返る、1964年・アメリカ
東部の夏の日の午後、の物語。

 イディッシュ語をほとんど解さず、アメリカ人として自己認識する主人公
だが、生きて来た折々には、ユダヤ系であることを意識せずにはいられない
出来事がある。

 主人公の父はロシア生まれなので、なおさらアメリカ人になろうという思いが
強く、第一次大戦に志願する。主人公とその弟は第二次大戦で戦う。主人公の
息子は小説では描かれていないが、近い将来、ヴェトナムへ行くだろう。
(あるいは反戦意識からカナダへ亡命するかもしれない。)

 父と息子の物語でもある。アメリカは歴史が若いから、伝統や繋がりの意識が
むしろ強くなり、父と息子の関係を主題とした物語が語り続けられるのだろうか。
 ユダヤ・キリスト教文明圏は、父と息子の物語を紡ぎ出す、とも言える。

 圧政から逃れて自由な国家を創ろうと建国されたアメリカにも、階級は
発生する。貧富の差と民族的な違いから階級が決まるのは、今にも続く。
 ケネディが暗殺された1963年秋のショックは、主人公から離れない。サッコ・
ヴァンゼッティ事件の記憶も離れない。上流階級の子どもたちが通う高校では、
サッコ・ヴァンゼッティ事件そのものが教えられていないことを知り、さらに
衝撃を受ける。

 個人の過去は、民族や国家の歴史と無関係ではあり得ない。それはよく解るが、
距離感が近すぎると感じた。構造がくっきりしている分、小説のふくらみが小さく
なるような気がする。

     (アーウィン・ショー/常盤新平 訳「夏の日の声」 講談社文庫 90初 帯 J)





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by byogakudo | 2011-07-23 12:36 | 読書ノート | Comments(0)


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