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猫額洞の日々

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2012年 04月 21日

あれやこれと/「我に益あり・西村伊作自伝」+「西村伊作の楽しき住家(じゅうか)」読了

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 私用に追いまくられ出したと思ったら、中断せざるを得なくなり、
まあ、そのおかげで別の私用を果たすことができたので、これで
よかった、ということにでもしておかないと。


 川本三郎「大正幻影」を再読していて、佐藤春夫もまた読もうかと
いう矢先、西村伊作関連本が2冊手に入る。買取りはありがたい。

 文化学院を創ったひととしか知らなかった西村伊作だが、もっと総合的で、
大正期のリベラルな文化人だった。戦前のブルジョアジーの底力もわかった。

 自伝は英語圏の読者に西村伊作を知らしめようという意図で口述筆記がなされ、
海外での出版がうまく行かないので、日本語版の刊行になったそうである。

 また彼は、自伝よりも一族のサーガが書きたかったようで、彼の両親や祖母の
ころの結婚風景__花嫁が徒歩で山を越え、途中の村々で休憩して村人に供応
される度に心付けを置いて歩き続け、一晩他家に泊まり、ようよう婚家に到着、
婚姻の儀に至る。__を読んでいると、小泉八雲でも読んでいるような気分だ。

 政治家や実業家が晩年になると、自分の手がけた事業や成果を述べ立てたく
なるのと逆方向の自伝だ。「我に益あり」だけでは、手がけた住宅や教会・公共
建築物が少なくとも65点もあるとは思いもよらない。
 「西村伊作の楽しき住家(じゅうか)」の巻末に、彼が関わった建築物リストが
出ていて、2001年時点で残存しているものもかなりある。

 西村伊作自身は信者とは言えないが、プロテスタンの環境に育ったのが、
後の様々な活動に影響している。自伝は自由主義者としての振舞いが咎められ、
六本木署に留置される場面から始まり、回想が湧き出るという構成である。

 明治期の特に上流階級にプロテスタン・キリスト教が流行った(個人の内面に
深く浸透したようには、あまり見えないので「流行った」と認識するのだが)のは、
「西村伊作の楽しき住家(じゅうか)」では生活改善運動絡みで、そうなったのでは
ないかと言うけれど、わたしはもっと他愛もない理由を思いつく。

 カトリックが旧教、プロテスタンが新教と訳されたのが大きいのではないか。
時は明治維新から間もなく、古きを捨てて新しきにつくのがモードである。
 隠れキリシタンの伝統のあるカトリックより、新入荷のプロテスタンに惹かれた
のではないかしらと、与太郎読みである。
 それと、儒教道徳に替わる新しい実践モラルとしても、わかりやすく受け入れ
やすかったのではないかしら。

 (西村伊作「我に益あり・西村伊作自伝」 軽井沢美術文化学院 2007年復刻初 帯 J)
 (田中修司「西村伊作の楽しき住家(じゅうか)」 はる書房 02再 J)


 今週の新着欄です、よろしく。
 新着欄 





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by byogakudo | 2012-04-21 13:22 | 読書ノート | Comments(0)


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