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猫額洞の日々

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2012年 11月 24日

ジョルジュ・シムノン「13の秘密」読了

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 今週の新着欄です、よろしく。
 新着欄


 タイトル作「13の秘密」の13編目で、ジョゼフ・ルボルニュが何故、
推理の道に手を染めるようになったかが明かされる。よくある趣向では
あるけれど、最後に置かれると、全体を引き締めてバランスがいい。

 文庫本の残り半分強を占める「第1号水門」は、期待せずに読み
出したら、あら、すてきじゃないの! ノアールだった。

 曳船の船長から出発して、今では大船主であり石切り場も所有する
大金持ちになった男、エミール・デュクローの、やりきれないほどの
個性が強烈だし、始まりは同じような立場だったが、こちらは出世せず、
アル中気味のガッサン老人も、屈折した、いい個性である。
 さらに、引退目前のメグレ警視(訳文では「警部」になっている)が
加わり、黄金の三老人の闘争が描かれる。

 若い男たちも出てくるけれど、三老人を前にすると、みんな影が薄い。
デュクローのひ弱な跡取り息子は自殺してしまうし、娘婿は遺産の
おこぼれを、気弱にしぶとく狙う。

 デュクローは週末を過ごす別荘にメグレ警視を招き、その席で家族
全員を罵倒する。

 同じ建物に住わせていた妾については、荷風みたようなことを言う。
< 「『マキシム』にいたころは、美人で陽気な女でしたがね。[中略]
 家具付きのちゃんとした部屋に囲ってやったら、こんどはぶくぶく
 肥りだして、あくせくと自分で洗濯はするし、炊事までしやがる。
 まるで門番のおかみ同然でしたな」>

< メグレにはとうにわかっていたことだが、こういった悲喜劇が
 デュクローの生活をむちゃくちゃにしていたのだ。この男は無一文から
 出発して、ざくざく金を稼いだ。大ブルジョワと取引もあって、その
 暮らしぶりもかいまみた。ところが、身内のものは依然として昔のまま
 だった。サモワにいる女房は、曳船の船尾で洗濯をしていた時代と
 おんなじ習慣、おんなじ身ぶりをそのまま持ちこしているし、娘と
 きたらプチブルのこっけいな猿真似(さるまね)しかできなかった。>
(p251)

 生命力があり過ぎ、意地をはり過ぎる前代の男たちと、戦後の青年たち
とのコントラストが鮮やかで、ギリシャ悲劇の戦後パリ版みたいだ。

     (創元推理文庫 1985年19版 J)
 





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by byogakudo | 2012-11-24 15:06 | 読書ノート | Comments(0)


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