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猫額洞の日々

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2013年 03月 09日

(3)中井英夫「黒鳥の旅もしくは幻想庭園」読了

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 今週の新着欄です、よろしく。
 新着欄



~3月7日より続く

 『第五章 悪夢の再来__笠井叡「七つの封印」』より抜き書きする。
初出は『日本読書新聞』1973年8月20日号である。

 「七つの封印」公演は73年6月から9月末まで、土日毎に全28回行われた。
 中井英夫が赤坂の国際芸術家センターに見に行ったのは8月5日・日曜日、
「第三の封印」最終日である。

 7時開演の6時半頃に着く。若い客が5~6人待っているだけ。中を覗こうと
すると受付の女性から、
<いま心を静めているところですからお入りにならないで下さい[以下略]>。

 15分経っても開演する気配がない。その時、奥のバルコニーに白装束の笠井叡を
認める。笠井叡は
<両の手にひとつずつ緑と赤のりんごを持ち、何とも優雅にくねらせて踊りの
 振りを見せていた>が、
<次の瞬間、いつか緑のりんごを笹に持ちかえて受付からこちらに突進して
 くる[以下略]。舞台はもう始まっていたのである。>(以上p173)

< 「荒魂の」と、かれは呟いていた。六方を踏む勢いで受付を通りぬけ階段を
 疾駆して降り、幅広い花道とも見える一ツ木坂への通りへ踊りながら姿を消すと、
 いつか二、三十人に殖えていた観客たちは、呆気にとられてその不在を見守った。>

< やがて帰ってきた(あるいはきてしまった)笠井叡は「肉体よ永遠に無惨であれ、
 この魂のために」と呟きつつ本舞台へかかる。[以下略]
 本舞台といっても三方に白幕を張り廻し正面に神棚を飾っただけのもので、そこ
 ではすでに十人ほどの、やはり白装束の踊り手たちが[注:笠井叡と]同じように
 狂気の発作を起こしかけていた。>
 靴を脱いで坐って見る会場の観客は約80人に殖えている。中井英夫の目には、
< その舞台装置は、中学生のとき一度だけのりこんでたちまち巡査につまみ
 出された赤尾敏の演説会場にひどく似ていた。>(以上p174)

 < アルビノーニの「弦楽とオルガンのためのアダージョ」で始まった音楽は
 突如として強烈なロック[引用者傍白:誰の何という曲だったか知りたいところ。]に
 変り、白装束の一人はブリーフ一つの裸体となって転げ廻り、笠井叡は黒く長い
 女の僧服めいた衣装と坊主頭という姿で再び現われると、異端審問に会った魔女
 さながらに白熱した踊りを見せる。>

<最後に榊を持った笠井叡が外に飛び出すとどうやら終りらしく、帰りかけると
 かれはすでに暗い道の上でころげ廻りながら、封印を解いてあらわれ出たものを
 何とか鎮めようとするかのように、榊でいつまでも地面を打ち敲いていた。>
(以上p175)

     (潮出版社 1974初 VJ)

(3)中井英夫「黒鳥の旅もしくは幻想庭園」
 





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by byogakudo | 2013-03-09 17:33 | 読書ノート | Comments(0)


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