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猫額洞の日々

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2005年 12月 03日

(1)「銀座細見」「わが切抜帖より/昔の東京」

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 安藤更生の本業は木乃伊研究であろうが、わたしに取っては ただもう永遠に
「銀座細見」の著者である。

 学者の道を進もうと決意し、慣れ親しんだ銀座と決別するために書かれた
「銀座細見」は、軽妙な調子(街行く人々の考現学的考察とか)を保ちつつも
哀切さが全篇に感じられる。殊に銀座のカフエ「ジヤポン」の章に記された
人見幸子(ひとみ・さちこ)或は人見ゆかりという若い女性のエピソードの哀しさは
忘れられない。

 「ジヤポン」に毎晩のように遊びに来ていたフラッパー・お嬢さんは、神戸の
お金持の令嬢だが、既に実家は没落し、父親は代々の什器を売って生き延びている
骨董商だ。

 彼女は嗜眠性脳膜炎を患ったせいで(本当かしら?)時々 突拍子もないことを
言い出したり、若い男たちと恋愛して「男の誰もがよく持つて居る疾患にかかつ」ても
「平気で逢ふ人毎に話すのである。」
 西條八十の内弟子になっても詩を作るわけではなく、
「よく洋装して或時は西條氏と、或る時は独りで、或る時は多勢のモダンボーイに
 とり巻かれて銀座を歩るいて居た。彼女は誰とでも平気で附き合ふのだ。何処へ
 でも行くのだ。さうして何でもするのだ。」

 こういうモダーンガールだけれど、安藤更生はその無垢を愛している。

 「彼女はほかのモダンガールのやうに悪るく神経的であつたり、気取り屋ではない。
その非常に都会的な美貌の蔭には、素朴な精神を包んで居た。こんな点を多感な
西條氏は好きだつたのだろう。彼女はしまひにはモダンボーイのおもちやのやうに
なつてしまつたけれど、それは性の乱舞に酔ふしれて居る彼等の恥にこそなれ、
彼女にとつては一つの自由解放であつたに違ひない。女が彼女のやうに自由に男と
附き合へるようになりさへすれば、僕等が考へて居る社会改造の一端は成就された
やうなものだ。だが今の社会はさうた易く解放はされない。彼女の行為だつて、
半ばは嘲笑的にしか迎へられなかつた。彼女に好意を持つ者でも、美しい白痴の娘とか
何とかいふロマンチツクな夢を通してでなければ接しようとはしなかつた。僕は其点を
彼女に気の毒に思ふ。」

 旧仮名遣いの長い引用で申訳ないが、安藤更生って素敵でしょう?! 
大正デモクラシーって本気だったんだ。彼女の晩年の様子が永井龍男に少し
書かれているのだが、わたしも疲れましたのでまた明日。(明日の引用文は短く
なります。ご心配なきよう。)

12月4日に続く~


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by byogakudo | 2005-12-03 12:34 | 読書ノート | Comments(0)


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