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猫額洞の日々

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2015年 08月 12日

トマス・ピンチョン/志村正雄 訳「競売ナンバー49の叫び」読了

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 大学ではナボコフの授業に出て、自分も作家になる。すごいなあ。
 宇治晶氏は、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのライヴを見た
ことのある人に会った話をしてくれたけれど、それもすごいなあ。

 ヴォリュームに負けて読んで来なかったトマス・ピンチョン。他の作品が
文庫化される時代(そんな時期が来るだろうか?)まで生きているとは思え
ないので、本気に読みたいなら、昼間にテーブルに向って本を広げるしか
ないし、値段、高いしなあ...。

 先の心配はともかく、楽しく読めた。エンリーケ・ビラ=マタスと同じ
ように。本は本(E・A・ポウ 他)の影響から作られ、作家は本だけでなく、
絵画(レメディオス・バロ)からも漫画(ルーニー・テューンズ)からも映画
からも、すべてから摂取して血と肉に変え、本を書く。

 エディプスの女性版、ミズ・エディパは以前、大富豪の恋人がいた。彼が
死んで彼女は遺産管理執行人に指定され、彼の巨大な富の遺跡廻りを始める。
 大富豪の恋人を、世界一だった50年代のアメリカ像のメタファとするなら、
60年代に行われたエディパの旅は、一見豊かで華やかな50年代アメリカの
夢の裏地、不穏な深層や混沌を、漠然としたイメージで明らかにする。

 "漠然としたイメージ"で"明らかにする"一例が、探索の旅の途中に出てくる
エリザベス朝(?)演劇のストーリーだ。巻末の『解注」によれば、
※『急使の悲劇』......リチャード・ウォーフィンガーの作品(八六頁)
 以下数ページにわたって述べられる。この作中劇は架空だが、マッシンガー、
 ターナー、ウェブスター、フォード、ヘイウッドなどの芝居から合成したので
 あろう。ターナーの『復讐者の悲劇』(一六〇七年出版)が雰囲気において
 近いと言われる。>(p207)

 やたら登場人物が多くて、人間関係が複雑で、できごとが次々に起こり、
何が何だかなストーリーを、曖昧模糊を曖昧模糊として読ませる技術が
すごいなあと、思ったのである。

 中央集権国家に育ったので、アメリカの自治意識の強さが理解できない。
 州ごとの自治権が強く、大きな政府(連邦政府)の象徴が郵便制度であり、
大きな政府への反抗として私的な郵便配達行為がある、と聞いて、頭では
わかるが、血と肉での理解はしない。
 個人が独立した個人であることの象徴としての、銃の保持の権利とか、
国民皆保険の否定とか、そういった原理主義的でパラノイアックな国家の
在りようが、やっぱり理解し難いのだろう。

 安倍晋三は、「殺(や)られる前に殺(や)れ」思想が肉体に宿ったアメリカの
手下として忠誠を誓い、手下になることが同時に「美しい国」日本を目指す
ことだと信じていられる、スキゾフレニアなのだ?! 
 
     (トマス・ピンチョン/志村正雄 訳「競売ナンバー49の叫び」
     ちくま文庫 2011再 J)





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by byogakudo | 2015-08-12 22:22 | 読書ノート | Comments(0)


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