行ったばかりだが、
喫茶[ε](「え」)にSと二人で入る。匣の中の
快楽を、ふたたび味わいたくて。
レジ近い、いちばん奥にわたし、その手前にS。壁画の前に、白い
スイートピー、一輪。ピンクの薔薇は窓辺に、ちがう容器で。
CDでモダーンジャズがかかっていたが、女性店主は次にプレイヤー
にレコード盤をセットする。
「それ、スピーカー内蔵なんですね?」とSが聞く。ディスプレイ用の
置物ではなく、パソコンにつなぐこともできる、近ごろの製品だそうだ。
午後3時ころ。腰高窓で区切られた、晴れた外の明るさと、室内との
明度の差が、水中から外を眺めているような気にさせる。絶妙である。
聴くともなく音を聴きながら、コーヒーを飲みながら、空間に浸される。
なぜ、ひとすじの煙草の煙も立ち上らず、一粒のピルも服用されることなく、
ここに、Sやわたしもまたいるのだろうと、ふと不思議に思う。
それだけの時間が経ってしまったのだ。
4月29日~
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