2016年 12月 06日
常盤新平『アメリカン ジャズ エイジ』で、ナサニエル・ウェストを 思い出した。名前だけ知っていて読んでなかった。 読んでみる。すばらしいじゃないか! なんでわたしはこれを読んで なかったのだろう? 死ぬ前に間に合ってよかったが。 ビートニク前後と、わたしは呼ぶけれど、ホレス・マッコイ『彼らは 廃馬を撃つ』、デューナ・バーンズ『夜の森』、ヒューバート・セルビー Jr『ブルックリン最終出口』、ジョージ・バクスト『ある奇妙な死』も そうか...、暗くて狂躁的でやりきれなくて落ち着ける世界。 それにしても、丸谷才一の初訳は1955年らしいが、改訳なしで この文体なのか。ビートとリズム(と抑制)がすばらしい。いま、 翻訳されたみたいだ。 p44の会話中にある"ホイスマンス"は、"ユイスマンス"に変えた 方が読者に親切とは思うけれど、こんなこと、どうだっていい。 世界は徹底して主人公の視点で記述されるから、主人公が改めて 自分の本当の名前を述べることはない。新聞社の身の上相談欄・ 担当者として名づけられた、"孤独な娘(MISS LONELYHEARTS)" として自らを捉え、その名前に囚われる。 一人称の世界なので、彼が自身のホモセクシュアル傾向に気づく こともない。 彼はキリスト・コンプレックスだ。読者から寄せられるあらゆる 深刻な悩みを我が事として共振する。新聞記者に必要な距離、他者性 はない。 キリストに倣って人々を、大衆を愛そうとする彼は、大衆の苦痛を 情熱的に一身に引き受け、受難する。愛する試みに失敗して、憎悪を 交歓することしかできなかったから。 聖性が求められない20世紀に生まれたキリスト(の弟子)にできるのは、 憎悪の完成としての、彼の死しかないだろう。新聞紙上に一度、掲載され、 すぐに忘れ去られるような。 (ナサニエル・ウェスト/丸谷才一 訳『孤独な娘』 岩波文庫 2013初 J)
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by byogakudo
| 2016-12-06 20:19
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