2016年 12月 23日
~12月13日より続く 新しい戦前が始まっているから読む訳ではないけれど、読み進める ほどに、ネオ戦前感が確信され、ひとは決して歴史に学ぼうとしない 生き物なのかと苦しくなるが、冷静にしつこく抵抗を続けるしかない こともまた、如是閑は再確認させる。 第三部『森戸助教授筆禍事件の論理的解剖』(1920年、雑誌『我等』 に書かれた)から抜き書き。 森戸辰男って、戦後の文部大臣ではなかった? 検索したら、そう だったが、戦前、1920年には"思想犯"として扱われた。 森戸辰男・助教授(当時)は、東京大学の雑誌『経済学研究』創刊号に 論文「クロポトキンの社会思想の研究」を寄せた。 社会主義思想の発表は発売禁止になる時代なのに、これが出たのは、 <大学が有する学術の自由に対して[注:権力側から]相当の承認が与え られたものとばかり信じていた。しかるに間もなく、この雑誌が全部 大学の手に回収されたということを聞いた。それは、大学が自(みず)から 回収しなければ当局は発売禁止を命ぜねばならない、すると勢い問題が 表向きになるから、大学自身回収して穏便(おんびん)に治めたいという 当局の希望に基(もとづ)いたことのように、新聞紙はその後に記していた。> (p213) 日本は昔から変わらず、空気を読むことを強制される国風(?)なのかと、 まず思い知らされるが、話は回収では終らない。森戸・助教授は突然、休職 処分される。 <私には、「回収」ということと森戸氏の休職処分ということとは一致しない ように考えられた。事を穏便にするため雑誌を禁止するという公(おおやけ) の処分すらしないというものが、森戸氏に対して公けの休職処分をすると いうのは、雑誌よりも人間の方を手軽に扱っているのであるという気がした。 [略] それから三日ほど過ぎて、新聞は、森戸氏と大内(おおうち)助教授(雑誌 名義人)とが起訴されたということを報じた。私はまたもや、前後矛盾した 現象が起ったと思った。穏便にするため「回収」するといっていながら、 森戸氏の「休職」となったのが矛盾、休職は自主的に事を処理するためと いって、それで一段落なるかの如く思わせながら、「起訴」となったのは 矛盾である。それならば、始めから発売禁止を行って、堂々法律上の手続を 起して行けば好い訳である。普通の官吏が普通の犯罪で検挙される場合にも、 大抵はいよいよ起訴となってから休職の処分を受ける。[略] 司法官よりも先きに、官署自身が官吏の犯罪を予断することは、官署自体の 不見識であり、本人に対する侮辱である[略]。 しかるに大学では森戸氏が起訴される前に、休職を決議して、発表せしめて いる。訝(おか)しなことだと思った。>(p213-214) 以下、矛盾点をねちねち、しつこく論理的に解明していく。このしぶとさが キモだろう。 <外部(恐らく政府部内)の圧迫によって回収したということについて考えて 見ねばならぬ。 [略] 法律による強制は、犯法者の手に、雑誌を回収せしむることを許さないで、 政府に没収する。いわゆる強制は、法律の強制でないに違いない。[略] 事実は、「自から回収しなければ法律によって処分する」という強制で あったのである。しかしこんな強制が、良心と、廉恥心(れんちしん)と 一人前の大人の身体(からだ)とを持った、堂々たる大学教授らを強制 し得たとすれば、甚だ不思議な出来事である。「法律によって処分する」 といわれてスグと「回収する」ような行為は、決して良心を持った行為 ではない。一旦(いったん)行った行為が正当であることを信ずるならば、 それを法律が罪する場合には、潔(いさぎ)よくその罪に服さなければ ならない。赤穂義士(あこうぎし)が、討入(うちいり)の途中で、法律に 触れると威嚇(いかく)されて、両国辺(りょうごくへん)から引返したら、 義士となる代りに、物笑いとならなければならない。>(p218-219) そして、ホブハウス教授の『国家の形而上学的理論』(1918年)から、 英文と日本文とで引用する。 < [彼が国家的見地を十分に勘案し、それを自分の内面の法に照して みた結果、自己の良心に課せられた精神的義務から免れるすべがない とわかった場合、彼は道徳的にも法的にも、国家への不服従を敢えて せざるをえなくなると思われる。]>(p219) (飯田泰三・山領健二 編『長谷川如是閑評論集』 岩波文庫 1989初 J) 12月25日に続く~ 沖縄平和運動センターの山城博治議長(64歳)は、ヘリパッド建設反対 の抗議活動で逮捕され、保釈が認められず、2ヶ月以上、拘留されている。 山城氏は2015年4月に悪性リンパ腫が見つかり、療養生活・半年、闘病 しながら反対運動に携わってきた。 < 温暖な沖縄とはいえ、朝晩は気温が下がる。病み上がりの山城さんは 靴下の差し入れ許可を求めてきたが、警察は「自殺予防」を理由に認めて こなかった。ようやく二十日[注:12月20日火曜日]、短い丈のものに 限って差し入れが認められたが、現在も房から出るときにだけ着用を許す など、制限があるという。 山城さんには接見禁止がつき、原則弁護士以外は面会ができない。> (「東京新聞」2016年12月23日(金曜日)朝刊28面「特報」 より) これが今の日本。
..... Ads by Excite ........
by byogakudo
| 2016-12-23 10:38
| 読書ノート
|
Comments(0)
|
アバウト
カレンダー
カテゴリ
以前の記事
2024年 03月
2024年 02月 2024年 01月 2023年 12月 2023年 11月 2023年 10月 2023年 09月 2023年 08月 2023年 07月 2023年 06月 more... ■ねこ新聞
■月刊ねこ新聞Twitter ■蟲文庫 ■kissa e(@higashi-koenji) ■往復書簡 ■旅猫雑貨店 路地裏縁側日記 ■海ねこ的 日々の暮し ■森茉莉街道をゆく ■山崎阿弥 ■サイコ☆ヒステリック 徒然日記 ■穴熊 日記 ■だらだら放談 ■鈴木創士 ■安柊有人(@sosi-suzu)・Instagram ■西谷修―Global Studies Laboratory(GSL) の後継ブログ ■nibuya(@cbfn) ■so_kusumori ■楠森總一郎 EROS VERSUS ■hirose tadashi|photographer ■kizashino ■きざし乃 栞 ■do-do ■スローラーナー ■muttnik ■やっぱりモダニズムが好き! ■かめ設計室 ■建築ノ虫 ■ご近所の日々 ■素人魂~特濃魚汁~ ■素人魂@いたちょ ■胡乱亭 ■梟通信~ホンの戯言 ■左平次(@saheiziinokori) ■花も嵐も踏み越えて鉄道人生44年 ■PAPERWALL ブックデザイナー日下潤一の日々 ■daily-sumus3 ■藤原編集室 ■退屈男と本と街 ■古本屋ツアー・イン・ジャパン ■okatakeの日記 ■ギャラリー ときの忘れもの ■ときの忘れもの@twitter ■銀座レトロギャラリーMUSEE ■痩せたり太ったり ■橋場一男 ■Tracy Talk・・・ ■Unknown Pleasures ■メグブログ 美咲歌芽句 ■亜湖公式サイト ■五月真理矢写真館 ■ヒゴヒロシ ■坂本弘道公式サイト ■三信ビル保存プロジェクト ■逗子なぎさホテル ■わき道にそれて純喫茶2 ■アトリエ プティカ 最新のコメント
検索
その他のジャンル
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧
|
ファン申請 |
||