人気ブログランキング | 話題のタグを見る

猫額洞の日々

byogakudo.exblog.jp
ブログトップ
2017年 01月 03日

(2)池島信平『雑誌記者』読了

(2)池島信平『雑誌記者』読了_e0030187_222388.jpg












 (写真は大川ではなくて去年の善福寺川。)

~2016年12月26日より続く

 文藝春秋に入った池島信平は1939年、社命を受け、
<満州から支那にかけて見て>(p83)きた。

 『日本を離れて想うこと』『戦時中の中国視察の回想』より引用。

<まず、船で朝鮮に渡って、一番驚いたのは朝鮮の軍国調であった。
 とても日本では想像できなかった。>(p83)

<当時、京城師範学校では、壁画にペスタロッチの額を掲げていたが、
 戦局の推移とともにペスタロッチは自由主義教育といわれて、この額の
 代りに楠公父子桜井の別れの大額が掲げられた。
 [略]次のように雑誌にレポートした。「ペスタロッチと桜井の別れ。私は
 複雑な考えに陥らざるを得なかった。京城の街を歩くと、木刀や竹刀を
 持った小学生にしきりと出くわす。
 [略]
 これは各小学校で木刀を振り回す体操をやるためであって、京城ばかり
 ではなく、いまや全朝鮮を通じて徹底的に行われているのである。国語化
 運動、皇国臣民の精神、勤労奉仕、忍耐訓練等々、いまや半島の教育界
 にはペスタロッチの入り込む隙もないほど、徹底的な日本化の運動が行わ
 れているのである。『あの少年たちの言葉はもう純粋な朝鮮の言葉でなく、
 日本語とのチャンポンなのです』と同行の朝鮮のインテリの一人が囁いた。
 十年前の小学校では、日本語を一言喋ったために袋叩きにあったそうで
 あるが......」>(p84-85)

< 満州を見てから北京に向った。
 [略]
  万寿山を見学したり、芝居を見たり、中国料理を食べたり、[略]一通りした。
 当時の北京で一番やりきれない思いをしたのは、日本の兵営や官庁のある
 ところに衛兵が立っていて、その前を通る者にみなお辞儀をさせたことである。
 日本人ももちろん、歩哨にお辞儀をしなければならないし、中国人までそこで
 帽子をとってお辞儀をしないと、大声でおどかされた。誇りの高い中国民衆に
 こういう愚劣な措置をとることが、どんな影響を及ぼしているか、心ある日本人
 はみな憤慨していた。>(p88-89)

< 太原に行く軍用列車は夜行は危険なので、夜は石家荘でとまらなければ
 ならない。私は石家荘の寂れた兵站宿舎で、わびしい一晩を送り、石家荘
 から装甲車に前後を護られた軍用列車で太原へ向ったが、娘子関へ着いた
 時、敵襲があったばかりで、汽車はここでストップした。線路へ出て体操を
 していると、向うにまっ赤な日本の着物を着た若い娘たちが、十人ぐらい
 賑やかに車から出たり入ったりしているのが見えた。よく見ると、みな朝鮮人
 の慰安婦で、真赤な着物はみんな人絹であった。彼女らのあげる不思議な発音
 の嬌声を聞きながら、その時私はなんともいえない暗い気持になったのを、
 いまでも憶えている。慰安婦の一行には日本人の遣手婆ァらしいのも一人
 ついていたが、この無教養な顔を見ているのは、はるかに堪えられなかった。>
(p90)

 『狩り立てられた編集者』『横浜事件の影』より引用。

 美作太郎法学士による「横浜事件」の定義:
< __「横浜事件」というのは、東京を中心とする三十余名の言論知識人が、
 横浜地方検事局思想検事の拘引状を携えた神奈川県の特高警察陣によって、
 検挙投獄された事件の総称であり、被検挙者の所属は、研究所員や評論家を
 含めた主として編集者よりなり、ジャーナリストであるところに特徴があった。
  従って事件は多岐に分れ、その間の連関は極めて乏しく、むしろ複数のケース
 を時間と地域の同一性から「横浜事件」と総称しただけで、強いてこれらの事件
 の共通性を求めるならば、それは増大する戦況の不利と、国内情勢の不安との
 ために凶暴化した天皇制警察が、軍国主義的絶対権力を笠に着て、ジャーナ
 リズムの抵抗線に襲いかかったという事実のなかに見るほかはないであろう。
 __>(p155)

 この定義は池島信平によって、
< 要するに、戦争遂行上、邪魔になる総合雑誌の編集者をまず十把一からげに
 ブタ箱に入れ、拷問をし、その中で身体の弱い者を殺したという事件である。>
(p155)と要約される。
 

     (池島信平『雑誌記者』 中公文庫 1985年6版 J)





..... Ads by Excite ........

by byogakudo | 2017-01-03 16:58 | 読書ノート | Comments(0)


<< 梶山季之『カポネ大いに泣く』読了      久しぶりに蔵前へ >>