2017年 03月 26日
情報の伝達を旨とする新書判って、"遊び"や余白が少なくて 読みにくいものではあるけれど、なんとか読了。 著者・一ノ瀬俊也のいう"軍隊マニュアル"は、 <徴兵にまつわる「決まり文句」の数々を収録した「マニュアル」 本である。[略] 今日でも書店に行けば売っている、『挨拶・式辞文例集』や 『手紙の書き方』といったジャンルの本の軍事版>(p5)である。 <兵士とその周辺の人々の「あるべき」振る舞いを規定した、 (主に)市販の書籍であり、大きく分類するならば、 (1)入営した兵士のための兵営事情案内・軍隊教科書(『兵卒 須知(すうち)』などの名がつけられた) (2)軍隊・戦場にある兵士と一般人とが相互にやりとりする手紙 例文集 (3)兵士の入営・凱旋・葬儀の際用いる、式辞・挨拶模範>(p6) の3つである。 たしかに兵営事情案内は必要だ。最初から職業軍人を志願した男なら ともかく、普通の職業人が徴兵されて、見知らぬ連中の仲間になり、徴兵 期間を過ごすのだから、勝手が分からないと不安で困る。 先輩から殴られるなんて噂も聞こえる軍隊なので、情報は多い方がいい。 心構えもできる。なるほど。 ふと、留置場マニュアルや監獄マニュアルはないかしら、と考える。 "ピストルのおまわり"がギャグではなく、共謀罪を何が何でも通そうと する政治権力として目の前に存在する今、必要になってきているのでは ないか、サヴァイヴァル・マニュアルとして? 杞憂であればいいけれど。 著者が"軍隊マニュアル"に注目したのは、 <このような「決まり文句」を通じて、当時の民衆が「なぜ自分は喜び 勇んで軍隊に行かねばならないのか」、「この若者はなぜ戦争に行か ねばならないのか」について、少なくとも表向きにはどう納得していた のかがわかる[略]。 この点を明確にすることは、「軍隊の存在」が当時の社会の中でどの ように論理的に正当化され、逆らえない存在たり得ていたのかを解き 明かすことに他ならないのである。>(p7) < 徴兵令が制定されて10年以上もたち、明治政府の強権的イメージ とも相まってとっくに社会に根付いていたように見えてしまう、 「兵士になること」の意義とは、未だ[注:明治17=1884年]口を 酸っぱくして「説明」されねばならない程度のものでしかなかった のである。 [略] このことは、何も明治初年だけに限られた問題ではない。昭和戦中期 に至るまでそうだったのである。つまり、徴兵・軍隊の正しさとは、 その時々の政治・社会的価値観にかなうよう、常に繰り返し説明される 必要があったのである。[略] 各種の軍隊「マニュアル」たちは、その装置に他ならなかった。[略] 「天皇陛下のおん為に」などといった抽象的な言葉を叫ぶだけでは、 人々を動かすことなどできなかったのである。 [略] ここで強調しておきたいのは、人々が<自ら書く・語る>行為の重要性 である。つまり人々は「マニュアル」を見て、兵士たる自分、兵士を 見送る人々が発するべき「正しい」言葉を、あたかも自分の主体的な 言葉であるかのように発したのである。すなわち、軍隊に行くことの 「正しさ」が、こうした人々の主体的(であるかのような)行為を通じて 繰り返し確認されていったのである。嘘も100回言えば本当になるなど という言葉があるが、そうした身体的行為を通じて、彼らの内心とは別に、 徴兵は誰にも逆らえない、正しい「建前」として成立していったのである。 [略] まがりなりにも納得することなくして結局のところ人は動かないからであり、 むしろ何らかの論理を示して人々を説得し納得させるために権力は腐心 していたというのが、太平洋戦争以前の大部分を通じての実態に近いと 私は考える。そのほうが効率的だったのであり、逸脱者に対する暴力の 行使は最後の手段であった。>(p8-10) 言葉は事態を規定する。言葉というウィルスに寄生されたヒトはまた、 事態を規定する言葉自体に影響される。 そんな風に言っちゃいけない。そんなことをしたら気狂いになってしまう。 (一ノ瀬俊也『明治・大正・昭和 軍隊マニュアル 人はなぜ戦場へ行ったのか』 光文社新書 2004初 帯 J) 呪 吐爛腐/呪 亜屁沈臓/呪 共謀罪=ネオ治安維持法/
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by byogakudo
| 2017-03-26 21:33
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