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猫額洞の日々

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2017年 04月 10日

D・M・ディヴァイン/中村有希 訳『ウォリス家の殺人』読了

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 2015年9月10日に読んだ『災厄の紳士』以来のD・M・ディヴァインだ。
ブログを読み直すと(読んでもストーリーは思い出せない)気に入ってる
ようだが、2冊目を読むまで1年半がかり。あんまりミステリ・ファンじゃ
ないな。

 wikiで見ると、D・M・ディヴァインは1920年-1980年。
 『災厄の紳士』は原作1971年刊、最新作『ウォリス家の殺人』が1981年
の原作刊行。わたしが知らなかっただけで、1994年から少しずつ翻訳されて
いた。長篇の未訳は2点のみ。本格ミステリが見直されてきたので、未紹介
だったディヴァインも注目されたのだろうか。

 これも地味でいいなあ。
 描かれる世界は1960年代のイギリス。語り手は歴史学者、モーリス・スレイター。
控えめな観察者タイプ。離婚して息子があるが、息子は母親から父の悪口を吹き込ま
れて育った。
 父と息子の物語は、タイトルのウォリス家にも"跡継ぎの息子が欲しかった"形で
共通する。ジョフリー・ウォリスは親を亡くし、スレイターの父に息子同様に(!)
育てられた。人気作家であり、今はTVの人気者でもある、派手なタイプだ。

 そうか、エディプスの物語でもあるんだと、いまさら確認。ジョフリー・ウォリス
には別々に遠く離れて育った兄、ライオネルがいる。彼が弟・ジョフリーの家に
顔を出し、近くに住むようになってから、ジョフリーの様子が変わってくる。暗く
なった。 
 カインとアベルの話でもある。ふたりのカイン(モーリスは義兄に近い)とひとり
のアベルだ。

 モーリスとジョフリーの妻(ジョフリーは元妻)は、どちらも家庭的ではない。
 モーリス元妻は美人だが無教育だ。結婚していたころ彼が彼女に気を遣わず、
学者の世界に閉じこもっていたのを今でも恨む。だから息子に彼の悪口を言い
続けたのだ。
 ジョフリーの妻は男を支配したがる。男といわず、ふたりの娘に対しても支配力を
行使したがる。長女がモーリスの息子、クリスと結婚したいというが、もっとお金持ち
の相手が好もしいので、モーリスを呼び寄せて阻止に協力させようとする。

 モーリスが語り手なので、世界は彼の視点によって記述される。女たちの側から
描けば、女の自立意志の萌芽期の物語でもあるだろう。元妻は振り向いてくれない男
への(へたくそな)反抗の形を取り、ジョフリーの妻は、夫(の権力)には女の権力
意志で対抗しようとする。

 こんなことばかりノートしてるから、どんな話だったかを忘れるのだろう。60年代の
カインとアベル物語でも、アベル=ジョフリーが殺され、イギリス田園地帯は不穏な
空気につつまれる。ストレート・ノヴェル風の語り口だが、観察者・モーリスがいつしか
調査に乗出す、ちゃんとした本格ミステリだ。


     (D・M・ディヴァイン/中村有希 訳『ウォリス家の殺人』
     創元推理文庫 2008初 帯J)





呪 吐爛腐/呪 亜屁沈臓/呪 共謀罪=ネオ治安維持法/





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by byogakudo | 2017-04-10 21:31 | 読書ノート | Comments(0)


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