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猫額洞の日々

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2017年 11月 09日

結城昌治『暗い落日』読了(紙上東京散歩/アパート考察)

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 家出した娘の行方を探してくれと、大金持ちから私立探偵に
依頼がある。探偵は以前、警察にいた。いまは事務所(兼住い)
で、ひとりで仕事をする。

 主人公の一人称の視点で書かれるハードボイルド・ミステリだが、
東京と近県を動きまわる主人公とともにする、紙上・東京散歩として
読んだ。探偵は、車で移動する。着いたら歩き廻る。土地の描写に
加えて、住いの描写もある。

 まず、依頼主の大金持ちの家に呼ばれる。

< 磯村英作(いそむらえいさく)の邸は田園調布の高台にあった。
 美しく刈りそろえた杉垣沿いに車をとめた。石造りの門から奥まった
 玄関まで、植込みに狭められた道は飛石を埋め込み、黒い土は昨夜の
 雨がしみこんでいた。
 [略]
 静かな公園があり、高台から南へ坂道を下りれば、多摩川の流れが
 早春の日射しを銀色にはね返している。>(p7)

 娘は自分の車、水色のブルーバードで出かけたきり、戻っていない。
19歳の劇団員(まだ"前衛"演劇ではなく、新劇系だろう)の娘に車を
買い与えるほど、お金持ち。原作刊行は1965年だ。

 次は、娘の恋人が助手として働く、北青山の写真家(当時の最尖端・
お洒落な職業)のスタジオに向かおうとするが、彼は欠勤している。
 代りに娘の演劇関係の女友だちを訪ねる。

< 渋谷区神山町__双葉荘はモルタル塗り二階建ての小さな
 アパートだった。
  部屋はコンクリートの狭い廊下の両側に並んでいた。>(p27)

__この形式のアパート時代も長い。これは内廊下式だが、外階段・
外廊下式が、この後に出てくるのではないか。

 向かい合わせに部屋を取り、間に廊下を通すと、居住空間が狭くなる。
だから、共用トイレットに共用流し(洗面台兼用)である。
 お風呂は銭湯に行くとしても、トイレットが個室内に欲しいと、まず声が
上がる。次いで、やっぱりお風呂もなきゃ、銭湯は好きな時間に入れないし、
定休日がある、と。
 バス・トイレット付きのアパートが増えるのと銭湯の減少とが反比例する。
 
 浴室とトイレットを別々でなく一カ所にまとめたとしても、内廊下を
挟んで向かい合わせの部屋を作るには、大きめの敷地が必要だろう。
外廊下に各部屋のドアが並ぶ形式なら、浴室・トイレット付き個室が
なんとか確保できる。
 戦前に建てられたアパートは内廊下式、戦後ある時から外廊下式になる
と感じられるが、アパートの形式の変遷について、何を読めばいいだろう?

 女友だちから、娘を渋谷のジャズ喫茶で見かけたひとがいる、という話を
聞く。「ブルー・モンク」という喫茶店だ。
 <道玄坂の途中を左に折れた繁華街に>(p119)あるという設定。
 探偵は自分の事務所から車で行くが、事務所兼住いの場所だけ、どことも
書かれていない。左折して繁華街、というと65年頃なら、坂を渋谷駅方向に
下って左手、百軒店だろうか?

 娘の恋人が両親と暮らす家に向かう。

< 魚籃坂(ぎょらんざか)下の交番で道順をきいた。
  坂の途中に左折できる道がなく、坂を上がりきって迂回した。一帯は
 大小の寺が多い。家々が狭い道の両側に軒を接し、魚籃坂下の騒音も
 ここまでは聞こえず、静かな住宅地だった。
  幾度も道を曲り、同じ道に出たりしてようやく[略]表札を探しあてた。
 古びた平屋だった。門の木戸が半開きのまま外れていた。一またぎすれば
 玄関だった。建物は古いがそう貧しい造りではない。>(p55)

 恋人の家庭は崩壊している。母親はアルコールに、父親は女に溺れている。
父親の愛人(バー「モルト」ホステス)のアパートは四谷。

< 車を四谷に走らせた。文化放送は四谷の若葉町にある。大通りの、
 バスの停留所の角を曲ればすぐだ。>(p64)

 アパートは文化放送の三階の窓から見えるところに在る。屋根が赤い
アパートだそうだ。車を文化放送の駐車場にとめて歩き廻る。

< 通りを隔(へだ)てて幾つもの路地があり、その狭い路地を入ると、
 軒なみに安建築のアパートが建っていた。目標は赤い屋根としか
 分かっていない。路地を入り、突当たって引返し、また別の路地を
 入った。
 [略]
  もっと文化放送から離れているのかもしれない。別の道をまわった。
 いったいにアパートが多い。コンクリート建ての、部屋代の高そうな
 マンションもあった。
 [略]
  工具店の横に路地があった。
  路地を入った。工具店の真裏が、アカシヤ荘というアパートだった。
 二階建、モルタルの色はくすんだような青、小ぢんまりして、しゃれた
 感じのアパートだ。門灯の明りは、むろん屋根まで届かない。
  しかしどうやら赤いようだ。間口は狭いが奥行があって、コンクリート
 の廊下が、路地と直角に伸びている。
  一、二階ともに四世帯に分かれているらしい。>(p65-66)

 二階の表札を見て廻る。「ロバート・カースン」という外国人名もある。
表札のない七号室のドアをノックしてみる。

< ドアは外側に開いた。[略]
  靴を脱ぐとダイニング・キッチンで六畳間くらい。二人分の椅子と
 テーブルがあり、隅にガスレンジのステンレスが鈍く光っている。>
(p67)
 奥は洋室のベッドルーム。

 当時の電話の話も書き抜いておこう。

< 双葉荘の電話番号をきいた。管理人室からの呼出しで、午前七時から
 夜は十時までしか呼んでくれないという。>(p37)

 アカシヤ荘の電話事情は、
<管理人室からの切換え式>(p102)だ。

 探偵は古い友だちのやっている新宿の喫茶店「ダダ」を、連絡中継
地点に頼む。「ブルー・モンク」のマスターにも「ダダ」の電話番号を
伝えて、尋ね人が現れたときの連絡を頼む。

 喫茶店を事務所代りに使うのは、ゴールデン街「ロンリー」のご主人
からも伺った(2017年4月27日)。

 愛人が勤めるバー「モルト」は新宿区役所裏通りにある(p81)という
設定。モルトはmaltだろうが、作者の頭にはmorteもあったかしら?

 歩いたことのある場所の1965年頃の表情が読み取れて、大変楽しい。
ハードボイルド・ミステリも時間が経つと、風俗小説、地理小説として
読まれてしまう一例だが、ちゃんとしたハードボイルド。


     (結城昌治『暗い落日』 中公文庫 2008初 J)
  




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by byogakudo | 2017-11-09 20:39 | 読書ノート | Comments(0)


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