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猫額洞の日々

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2018年 01月 08日

デイヴィッド・ベニオフ/田口俊樹 訳『卵をめぐる祖父の戦争』読了

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 写真は西新宿(柏木一ノ一四三)で。


 レニングラード包囲戦の真っ只中を凸凹コンビが道行きする、
メタフィクショナル・エンタテインメント。
 すぐに映画にできそうで、するとしたら「真夜中のカウボーイ」
や「マイキー&ニッキー」みたいなバディ・ムーヴィーになるだろう。
しかし、その場合、メタフィクションの部分はカットするしかないか?

 作家である"デイヴィッド・ベニオフ"が、引退してフロリダに暮らす
祖父母を訪れる。彼らは第二次大戦のレニングラード包囲戦を生き延びて
アメリカ人になった。祖父・レフの口から語られる、戦火の青春の物語、
という枠組みが、まずひとつ。
 映画化するなら、ここまでを"デイヴィッド・ベニオフ"のナレーション、
ここからアイリスインして物語を始めるという、安直な手がある。

 "レフ・ベニオフ"少年(17歳)は疎開せずに消防団員としてレニングラード
に停まり、餓えやドイツ軍の空爆に耐えているが、ある夜、凍死したドイツ
兵から盗みをしたのが見つかり、逮捕される。
 相牢になったのが脱走兵、コーリャ(20歳くらい)。ふたりは即座の銃殺は
免れるが、大佐の娘の結婚式用に、一週間以内に卵を一ダース探してくる
ことを命じられる。

 レニングラード市中に食糧はない。包囲されたレニングラードを脱出して、
ドイツ軍占領下の村に進入するしかない決死行であり、行く先々で戦争に
つきものの悲惨な状況に遭遇する。人肉を食糧にするための殺人、餓死、
強姦、裏切り、...もろもろ。

 戦時に起こり得る、あらゆる残虐で悲惨な状況だが、それらは差し迫らず、
記号的に記述される。肉迫しない、舞台の背景画みたような感触を受けたが、
原文でも同じように感じられるものなのか? そうだとしたらそれは、戦争
"文学"になることを避けて、エンタテインメントの枠内に在ろうとする、作者
の姿勢だろうか? 

 金髪碧眼、ハンサムで女好きなコーリャと、さえないユダヤ人少年・レフが、
こんな背景のもとに珍道中を続ける。ふたりの共通項は、文学志向であること。

 道々、コーリャは、書きかけの論文(ウシャコヴォの『中庭の猟犬』論)に
ついて語り続ける。レフの父は粛正された詩人、アブラハム・ベニオフ__
アブラハム! 頭文字はABと、始祖性が強調される__で、レフは文学好き
だが、聞いたことのない作家・作品である。
 さらには、メタフィクションについて議論する場面まである。剽窃か、
オマージュなのか、などとも。

 こういう入れ子の中の入れ子構造を全部カットして脚本にしたら、映画の
終わりにアイリスアウトして、また"作家・デイヴィッド・ベニオフ"のナレー
ションが流れる、青春/冒険/バディ・ムーヴィーになりそうだが。
 まあ、これは安直版のアイディアだ。もっといい脚色方法は、いくらもある
だろう。

 気になるのは、悲惨なエピソードの連続から来る平板さだ。当った資料を
全部、使いきらないでもいいのにと感じたのだが、あんなに背景を埋め尽くす
必要があるだろうか? 
 もっとエピソードを減らして述べる方が、緩急やすき間が設営されて効果が
上がるのではないかしら? 近ごろの映画が長過ぎるように、この小説ももっと
摘んだ方がモタレないですむのではないかと、途中で早送り的に終章を読んで
しまった怠惰な読者が、悪いけれど、思ったことだ。
 
 よくできたエンタテインメントだが、あんまりわたし向きではないのだろう。

 
     (デイヴィッド・ベニオフ/田口俊樹 訳『卵をめぐる祖父の戦争』
     HPB 2011年4版 帯 VJ)





呪 亜屁沈臓/呪 汚池腐裏子/呪 共謀罪=ネオ治安維持法/呪 吐爛腐・夷蛮禍/

 安保関連法(こと戦争法)の本会議投票行動(PDF)東京都の
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 【票を入れるな危険】日本会議所属の都議候補一覧

 小池百合子氏 日本会議“本流”から外れた愛国者

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 上記のPDF





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by byogakudo | 2018-01-08 20:21 | 読書ノート | Comments(2)
Commented by saheizi-inokori at 2018-01-08 22:19
力づくで読んだような記憶があります。
Commented by byogakudo at 2018-01-09 11:49
なんだか、アメリカの現在作家には、体力芸の
ひとが多いように思います。


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