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猫額洞の日々

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2018年 06月 04日

ロジェ・グルニエ/宮下志朗 訳『パリはわが町』読了

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 時と場所のないできごとは存在しない。自分が関わった
できごと__本で読んだ事柄もできごとだ__を時系列で
述べるに当たって、できごとが生じた場所を章のタイトル
にして綴られた一冊。

 ひとが誕生する際には生物学的先祖が存在する。ロジェ・
グルニエの父はパリ『マザリーヌ通り21番地』に生まれ、
母はラングドック地方。
 著者は1919年カーンで生まれ、1943年11月30日以後、
<わたしは完全にパリっ子なのである。>(p33『バンキエ
通り33番地の2』)

 ナチ占領下のパリで、ロジェ・グルニエのジャーナリスト
生活、抵抗者としての日々が始まる。
 パリ解放までの記述は、さながらエリオット・ポールの
『最後に見たパリ』続篇みたようだ。町は親独派と抵抗者
とに分かれ、ナチが敗走する折には戦闘が起きる。

 わたしは無知だから連合軍=アメリカ軍が来て、ナチの
占領が終ったのかと思っていた。何しろ、敵国軍=連合軍=
アメリカ軍によって、自国の軍政による占領状態から解放
された日本人の子孫なので。
 親方日の丸から親方星条旗へと変わっただけの、被支配
を好む人々が多い国に生れてしまった不幸である。

 『シャンゼリゼ大通り91番地など』より引用。
< 1944年の11月から、わたしはラジオ局でも働くこと
 になって、[略]
 放送という実に変化に富んだ世界の思い出を語るのに、
 わたしは『持ち場を守る』と題した本を丸一冊書く必要
 があったほどだ。[略]
 「神の裁きに決着をつけるために」を収録中、その異様な
 興奮をスタジオ中に伝染させた、アントナン・アルトーの
 ことが忘れられようか。また、自作の短篇「なくSans」を
 収録すべくマイクを前にしたサミュエル・ベケットを。光栄
 にも、彼はナレーターの一人にわたしを選んでくれたのだ。
 [略]
 ある日わたしは、ベケットと組んでこのラジオ放送をプロ
 デュースしたアラン・トリュタに、「放送を聴けなくて、
 残念です[略]」と話した。すると彼は、「でも、あの番組は
 放送されなかったんだ。一度も電波に乗らなかったんだよ」
 と答えた。>(p105-106)

 『ヴォルテール河岸通り25番地』からも引用したい。
< モンテルランは、自分の著作の成功のためには、なにごと
 も細かく気をつかう人間だった。
 [略]
 ガリマール社には「図書室(ビブリオテック)」と呼ばれる
 一室があって、作家たちはそこで寄贈本の献辞を書いたり
 している。あるとき、モンテルランが昼食のために外出中
 に、ジャン・ジュネが部屋に入ってきた。署名が済んだ本
 が山と積まれているのに気づいたジュネは、いかにも卑猥な
 献辞を付け加えていった。そのことにだれも気がつかぬまま、
 モンテルランの著書は寄贈先に送られた。それらには今日
 では、たぶん稀覯本なみの価値があるにちがいない。>
(p162)

 ジュネのエピソードは『フォーブール=サン=ジャック通り
81番地』と『ラモー通り』にもある。
 この本には目次がなく短い章が編年体で続くが、巻末の
人名索引から、できごとが在った場所に飛べる。

 『シテ・ヴェロン通り6番地の2』より__
< ジャック・プレヴェールは、<ムーラン・ルージュ>の
 横の袋小路シテ・ヴェロン通りに住んでいた。その<ムー
 ラン・ルージュ>の屋上には小屋が建っていた。大通りから
 だと、風車に隠れて見えないのだが、ボリス・ヴィアンは
 そこに住んでいたのだ。>(p170)


     (ロジェ・グルニエ/宮下志朗 訳『パリはわが町』
     みすず書房 2016初 帯 J)





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by byogakudo | 2018-06-04 13:42 | 読書ノート | Comments(0)


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