人気ブログランキング | 話題のタグを見る

猫額洞の日々

byogakudo.exblog.jp
ブログトップ
2018年 08月 09日

(4)ミシェル・ビュトール/清水徹 訳『時間割』読了

(4)ミシェル・ビュトール/清水徹 訳『時間割』読了_e0030187_1855534.jpg













~8月8日より続く

 敗北し続けるテセウスの冒険潭。

 主人公、ジャック・ルヴェルは、美術館の綴れ織りの主人公、テセウスに
自己投影する。
 綴れ織りはイギリスの公爵がルヴェルの母国、フランスに注文したものだ。
ギリシャの物語の背景にイル・ド・フランスの樹々が織り出され、18枚に渡り、
テセウスの冒険が描かれる。
__"ヨーロッパ人"の自意識は古代ギリシャに発するのか、なるほど。

 赴任先、ブレストン(霧と雨の街だ)になじめず、街から拒否されていると
感じる主人公は、圧迫感に耐えきれず、街に挑戦しようとする。

 彼の闘い方は、自分が体験した、街での出来事とその分析、出来事に
対して抱いた感情、これらすべてを、詳細に執拗に書き続けることである。
 書くことは、漠然と感じていることに明瞭な輪郭線を与え、書き手と
出来事との間に見るために必要な距離を設ける、悪魔払いの作法だ。
 書くことで街に引っかき傷なりと与えようという試みだが、書き続けて
いるうちに、分析を続けているうちに、街自身もまた自らの囚われもので
あると気づく。

 主人公はあらゆる出来事に照応を見て取る。街でぼやが続けば、自分の
怒りが焔になったと思ってしまうような。
 ミステリの書き方を使った小説なので、あちこちに赤い鰊が転がってるか
に見えるけれど、伏線でもミスディレクションでもなく、放りっぱなしの謎
もある。

 街と彼自身との格闘は、しかし、紙上での"出来事"であり、それを読む
ひとがいなくては存在を始めない。思考し書き続ける主人公は、現実生活
と接触すべき時点で、いつも出遅れる。読んでもらいたかった女友だちにも、
夜毎書き連ねた日記/原稿を見せるタイミングを失う。
 彼は何ひとつ、現実の果実を得られない、敗走を続けるテセウスである。
会社との契約期間が終了したので、彼は自動的にブレストンから逃れること
ができるのだが、脱出というより、はじき出される、と言った方が正しい
だろう。

 教会建築やギリシャ神話については、巻末に詳しい解説があるが、新しい
大聖堂に出てくる、蠅と大きな亀のモチーフは、何と呼応しているのか、
無知で見当がつかない。

 主人公が最初に会話できたイギリス人・男性の母親のエンゲージ・リングは、

<爪金についたガラス球のなかに、一匹の蠅が完全に保存された状態で
 収められている金の指輪>
(p88『第一部 はじめの頃 五月三十日(10月) 金曜』)である。

 蠅はまた、『ブレストンの暗殺』の著者が事故あるいは事件で大けがを負い、
ようやく回復しかけたときも、うるさく飛び廻る。
 大亀や蠅は、新大聖堂の箇所で出てくるので、聖書に関連するのかしら?

 読者の側に知識の欠落が多すぎて、十分に読めなかったけれど、いつか
ジョイス『ユリシーズ』も読んだ方がいいんじゃないかと思う。いずれ、
いつか...。


     (ミシェル・ビュトール/清水徹 訳『時間割』
     河出文庫 2006初 J)


(1)ミシェル・ビュトール/清水徹 訳『時間割』

(2)ミシェル・ビュトール/清水徹 訳『時間割』
(3)ミシェル・ビュトール/清水徹 訳『時間割』
(4)ミシェル・ビュトール/清水徹 訳『時間割』





呪 亜屁沈臓/呪 汚池腐裏子/呪 共謀罪=ネオ治安維持法/呪 吐爛腐・夷蛮禍/

 安保関連法(こと戦争法)の本会議投票行動(PDF)東京都の
安保関連法(戦争法)に賛成した議員名


 共謀罪強行成立記念! 安倍政権の暴挙を忘れないために振り返る
「共謀罪トンデモ答弁・暴言録」


 【票を入れるな危険】日本会議所属の都議候補一覧

 小池百合子氏 日本会議“本流”から外れた愛国者

 「共謀罪」法 衆参両院議員の投票行動

 上記のPDF





..... Ads by Excite ........

by byogakudo | 2018-08-09 21:24 | 読書ノート | Comments(0)


<< その後の英語事(/殊更/今更)始      (3)ミシェル・ビュトール/清... >>