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猫額洞の日々

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2019年 03月 30日

(7)加藤周一/小森陽一・成田龍一 編『言葉と戦車を見すえて』読了

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~3月1日より続く


 忘れていたわけではない中断していただけの加藤周一/小森陽一・
成田龍一 編『言葉と戦車を見すえて』を読み終える。

 どこを引用しよう? 『6 危機の言語学的解決について』(1981年)
から__

< 思えば私は少年の頃から「危機」の時代を生きてきた。まず「満州
 生命線」の危機があり、その次には「ABCD包囲網」の危機が続いた。
 「坐して滅びるよりは」始めようといって始めたいくさが、危機で
 あったことは、いうまでもない。「危機」または「非常時」。敗戦が
 危機でも非常時でもなかったのは不思議だが、その後ただちに危機が
 復活した。>(p296)と、書き出される。ほとんど全文引用になる...。

 『誰が唱え誰が説く』という小見出しで__
<「危機」を唱えることによって生じる損得が、経済的にも、政治的にも、
 一様に配分されているのではなさそうだ、ということには、注目せざる
 をえない。>(p297)

 次の『敗戦を休戦とよび』で__
<とにかく「危機」がのべつまくなしに続いているとして、[略]
 数ある対策のなかで、殊に日本社会が好んでとってきたのは、[略]
 言語学的対策である。[略]
 日本における危機の言語学的解決法の洗練は、「敗戦」を「終戦」と
 よび、「占領軍」を「進駐軍」とよんだときから始まっていた。「終戦」
 という言葉は、いくさの勝ち敗けを明示しない。敗けいくさは危機だが、
 いくさの終わりは平和の希望であろう。「占領軍」は、日本の法律と
 天皇の権威に超越しておそろしいが、もしそれが「進駐軍」ならば、
 日本国と天皇制の安全をまもってくれる有り難い存在である。
  「主権侵害・見殺し・ウヤムヤ主義」は国の権威の失墜だろうが、
 「政治的解決」といえば威風堂々たるものだ。「アメリカ追随」、__
 これを称して、ときには「日米対等」、ときには「等距離外交」、とき
 には「国際的責任を果たす」という。「アメリカ追随外交」は、__中国
 承認でさえも米中接近の後であって前ではなかった__、日本国の独立の
 危機でないこともない。しかし、「国際的責任を果たす」のは危機どころか
 独立の精神の顕現である。>(p298)

 これらはシンプルな言い換えだが、もっと手のこんだ言語学的解決法が
ある。

<太平洋戦争の結果として、アメリカはまず日本の非軍国主義化を望み、
 その次に冷戦の結論の一つとして、日本の再軍備を望んだ。そこでアメ
 リカが日本に「押しつけた」のは、第一に、軍備を禁じる憲法であり、
 第二に、小規模の軍備すなわち自衛隊である(警察予備隊→自衛隊→
 その増強)。
 この「押しつけ」第一と「押しつけ」第二とのつじつまは合わないから、
 そこに制度上の危機が生じた、といえるだろう。>

 解決策1は、従来の解釈学的方法だ。
<「小規模の軍備は軍備でない」(憲法でいう「戦力」ではない)>
あるいは、
<「自衛のための軍備は軍備ではない」>

<「小規模」とは相手次第で変わる相対的な概念である。「自衛のため」
 といわない軍備は、どこにもなさそう>(p299)
だが、まるきり嘘ではない、<白馬は馬に非ず>(p300)論である。

 そして、解決策2、『宣長以来「言(コト)は事(コト)』__
<憲法改訂、第九条修正主義の議論である。この方は、専ら「押しつけ」
 に注目し、「押しつけ」第二を採って、「押しつけ」第一を捨てる。[略]
 アメリカが押しつけたのはイヤだから(憲法)、アメリカが押しつけるものを
 歓迎する(軍備増強)、というのである。ただしアメリカは、日本国の自前の
 核武装を「押しつけ」ない。それどころか、強くそれに反対するだろうから、
 この議論の「軍備増強」には核武装を除く。>(p300)

 長い長い自己欺瞞の歴史のツケを一気に払うことはできなくても、いつ、
どこで、どんな風にインチキを重ねて来たかを、少しずつでも解きほぐす
作業を始めることは、いつだってできる。


     (加藤周一/小森陽一・成田龍一 編『言葉と戦車を見すえて 
      加藤周一が考えつづけてきたこと』ちくま学芸文庫 2009再 帯 J)

(1)加藤周一/小森陽一・成田龍一 編『言葉と戦車を見すえて』
(2)加藤周一/小森陽一・成田龍一 編『言葉と戦車を見すえて』
(3)加藤周一/小森陽一・成田龍一 編『言葉と戦車を見すえて』
(4)加藤周一/小森陽一・成田龍一 編『言葉と戦車を見すえて』
(5)加藤周一/小森陽一・成田龍一 編『言葉と戦車を見すえて』
(6)加藤周一/小森陽一・成田龍一 編『言葉と戦車を見すえて』
(7)加藤周一/小森陽一・成田龍一 編『言葉と戦車を見すえて』





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by byogakudo | 2019-03-30 21:23 | 読書ノート | Comments(0)


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