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猫額洞の日々

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2019年 04月 27日

(1)千田稔『明治・大正・昭和 華族事件録』半分ほど

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 今日の写真も、大川ではなくて横浜で


 半分まで来たけれど、スタイルのない文章を読むのは、ほんと、
苦痛である。
 もちろん、『ハリウッド・バビロン』的なものは期待していない。
近年、近現代史が知りたくなったので、新聞記事などの資料から読み
解く、華族のスキャンダル史__公家はいたけれど、華族は明治以後
に作られた階級だ__と、理解して読み出したのだが、一般向けの本
だからって(だからこそ)、こんなに文体がなくて通用するのか?

 さらに、ひとつの事件/できごとについて書かれた、手に入る限りの
新聞記事を参照して、起きたことを再構成する際に、著者のコメント
は必要かしら?
 できるだけ、その当時の人々の受けとめ方(マスコミも含めた、大衆
の意識)に沿って記述することに努めた方が、現在とのコントラストが
はっきりして、効果的ではないかと、わたしは思うが、著者は事件への
感想を言いたくなるようだ。

 で、著者・千田稔の感想(コメント)はといえば、どうも、オバチャンが
近所の噂を触れ回ってるときの、識閾下の正義感がある。スキャンダル史
を書くときに勧善懲悪・説に立っても、しょうがないとは思わないのか? 

 彼が評価するのは、スキャンダルを上書きするほどの働きを見せ、おイエ
の存続や復興に成功した人物。おイエの恥を引き起こした当事者は、一片の
同情もかけられず、断罪される。
 おイエ大事なので性差別をする。同じような不倫行為であっても、男の側
には事情を酌み、女がやると切り捨てる。

 『第三章 華族の不倫、放蕩、散財』で、吉井勇と妻・徳子について、

<やがて勇は結婚生活にも慣れ、再び歌人としての歌材を外に求め
 ようとする。すると、勇は自分の歌風が家庭生活と合わぬことに
 気づく。だからといって、歌材を外に求めることを止めるわけにも
 ゆかず、勇は再び酒と女に歌材を求めて花街に遊ぶようになる。
 ほどなく、今度は徳子が結婚に幻滅を抱き始める。
 [略] 
 彼女は初めは長男滋に慰みを求めたが、夫が遊ぶならば、私も遊ぼう
 と、いつしか夫への反撃の気持ちが強くなる。
  彼女は夫が芸術のために遊興することを到底理解することはできな
 かった。
 [略] 
  自分の遊興には歌材を求めるという名分があったつもりだが、徳子
 遊興の責任の一半は自分にもあると思ったのか、勇は当初、放任する。
 しかし、妻の不貞の噂が出てくると、勇は動顛(どうてん)する。勇は、
 遂(つい)に徳子に自省を求めるが、やはり勇の歌材探求という名分を
 理解しようとしない徳子には、勇の戒めはあまり説得力はなかった。>
(pp130-131『2 次女、伯爵吉井夫人の不倫』)

 藝のためなら女も泣かす、とかいうマザコン丸出しの歌謡曲の歌詞が
あったと思うが、このときの吉井勇は、まさにこの状態だったと、千田稔は
言いたいわけか? 

 著者は元々、性差別的だったのだろうか? それとも、華族史を研究して
いるうちに、いつしか華族的価値観に囚われてしまったのか、スパイがいつ
しか二重スパイに陥るように?

 不思議なことに、岡田嘉子と竹内良一について(『男爵外松(とまつ)家
嗣子の恋の逃避行』)は、千田稔の筆が優しい。両者に同情的である。

 『はじめに』という前書きで、
<社会科学の対象とする人間と、文学、哲学の対象とする人間とは異なる
 ことは十分に承知した上で、社会科学の研究の根底として人間を研究して
 きた。>(pp11-12)
と自負するが、岡田嘉子と竹内良一の関係を記す文章は、どう見ても小説的
想像力の展開である。
 華族のスキャンダル史を読むつもりが、著者の心理を読む方に傾いてしまう。
 わたしは何を読んでるのだろう。

 わたしも日本語が怪しいが、編集者は誰も、著者の

<「汚名を挽回(ばんかい)」>(p128『第三章 華族の不倫、放蕩、散財』
『天皇従兄弟(いとこ)、妹と娘に手を焼く__伯爵柳原良光の懊悩(おう
のう)』)や、

<六男勝男は兄達の汚名を挽回(ばんかい)して、戦後の昭和三十九年まで
 生きる。>(p202『第三章 華族の不倫、放蕩、散財』『IV 華族子息・
息女の放蕩(ほうとう) 元帥(げんすい)大将家は放蕩・家出で消滅、動揺』)
のミスに気がつかなかったのかしら? それとも今では汚名は返上せずに、
挽回すればいいことになっているのか?

 
     (千田稔『明治・大正・昭和 華族事件録』 新潮文庫 2002初 J)

5月1日に続く~





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by byogakudo | 2019-04-27 21:48 | 読書ノート | Comments(0)


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