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2023年 11月 02日
![]() 森茉莉の話だけで感想文を終えるのもあんまりだと思い直す。 他にも引用したい箇所があるじゃないか、というわけで 『Capitolo.7 人間万華鏡』の『サハラに消えた映画 <長谷部安春>』 より引用___ < 東宝を契約解除になった山田順彦P(故人)がひょっこり訪ねて きた。『サハラに死す』という本を持って。 上温湯かみおんゆ隆という青年が、ラクダ一頭でサハラ砂漠を 横断しようとして失敗し、砂漠の中で死ぬまでの手記だった。 山田Pはこれを映画にしたいと、ほとんど熱狂的であった。 ふと、私は[略]『太平洋ひとりぼっち』を思い出していた。 大作だったが客が全く来なかった。それを言うと、山田Pは[略] 「それは違うぜ。砂漠は美しいし力がある。[略]」 と、何冊もの分厚い写真集を取り出した。それ以後、砂漠の写真 ばかりを撮っている野町のまち和嘉かずよしと何度も会って、他にも 写真集を見せられた。 なるほど迫力がすごい。[略]しかし砂漠は砂漠であり、迫力は あったが人間がいない。 原作も渡された。[略] 「さあ、次は監督だ」 と、山田Pはサハラにとり憑かれたような声を出した。[略] 次の会合には三船プロの田中寿一Pが現れた。 「今、長谷部安春がうちでテレビを撮っているんだけど、彼では どうだろう」と田中P。 「ああ、いいんじゃないかな」と私は思った。 田中Pは「じゃあ今から呼ぼう」と電話をかけた。まもなくベー (長谷部)さんが現れた。 こうして『サハラに死す』が立ち上がったのである。>(pp364-365) しかしイメージや想いから映画にする/なるまでは遠い。女性の登場 人物は、"歌舞伎役者が隈取ったような顔"(p366)のトアレグ族だけで あるし、 < ベーさんは、[略]「これはモノローグの映画になるのかなあ」[略] 「だって話す人がいないでしょう」>(P P365-366)、 ドキュメンタリならともかく致命的な問題だ。なんだかだで映画化の話は 流れる。 『Capitolo.7 人間万華鏡』は追悼文集で、どれもいい。白坂依志夫の思い が痛切だ。長谷部安春への追悼文である『サハラに消えた映画』は「映画 芸術」429号・430号、2009年と2010年に書かれたものだが、文章の構成 を示すと___ 長谷部安春と知り合ってすぐの仕事でのトラブルシューティング(主演の 原田芳雄が交通事故を起こし、彼抜きでの脚本を急いで書き上げる)から始まり、 (途中を略す)、『サハラに死す』が立ち消え、(また略す)、 癌に気づかず胃薬を常用する長谷部安春、彼の自宅へ一度だけ行って奥さんや 娘に会った話になり、"長谷部安春を偲ぶ会"で奥さんと娘さんと再会したこと、 そして、 < 中央に飾られたベーさんの写真に、おのがじし一輪ずつ花をたむけた。私は 心の中でつぶやいていた。 「ベーさん待っててね、僕もすぐそっちに行くよ」 そのずっと前に三船敏郎は死に、三船プロは倒産し、当然『サハラに死す』は あぶくのように消えていた。>(pp370-371) と結ばれる。 どんなに思いが募っても言葉がひとりよがりにならないのは、常に観客を意識 した設定と会話を書かなければならない脚本家だから? たとえば引用した『太平洋ひとりぼっち』の箇所をを省略せずに書くと、 < ふと、私は市川崑監督、石原裕次郎主演の映画で、大ベストセラーだった 『太平洋ひとりぼっち』を思い出していた。>である。 さりげなく必要な情報が入れてあるし、思い出話は故人を英雄視せず、からかい や失敗談みたようなエピソードも挟んでポートレートを描き上げる。 技術があるっていいなあ。べたついた感情表現でできごとの表面をなめくじの ように這いずり回る姿勢とは、真逆の立ち位置が爽快だ。 日本のモダニズムの頂点のひとつ、ひとりなのかしら? 八住利義という戸籍名 ではなく、白坂依志夫という画数が少なく、すっきりしたペンネームを使ったのも モダニストって感じだ。 白坂依志夫のこの本や、荒木一郎『ありんこアフター・ダーク』は、ほんとは わたしの兄の世代、60年安保世代のほうがもっとピンと来るのかもしれない。 (白坂依志夫『不眠の森を駆け抜けて』 ふゅーじょんぷろだくと 2013初 帯 J) (2)白坂依志夫『不眠の森を駆け抜けて』 ..... Ads by Yahoo! ........
by byogakudo
| 2023-11-02 21:26
| 読書ノート
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Comments(2)
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
あっ、じつはそれを覚えていたので引用したのです。
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