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猫額洞の日々

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2007年 09月 23日

「幽霊」読了

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 (写真はクリックすると拡大します。)

 イーディス・ウォートン「幽霊」(作品社 07初帯)、やっと読了。
3作目「ジョーンズ氏」から徐々におもしろくなった。「柘榴の種」と
次の「ホルバインにならって」がとくに素敵だ。

 「柘榴の種」では、死んだ前妻から死後のメッセージが届く夫と、その
現在の妻、夫の母、三人がそれぞれに死者からのメッセージに反応するが、
妻と母のリアリスト振りと、夫の懊悩との対比が見事だ。

 いまの妻を現実的に愛しつつも、冥界に棲む前妻からのメッセージを
受取ると心乱れる夫は、それでも自分がまだ生者であるから、必死の思いで
現実生活を続けるが、ある日、失踪する。死者に連れ去られるように。
 帰ってこない夫・息子を待つふたりの女は、パニックを起しながらも
あくまでも現実的な方法でしか、対処しない。できない。警察に失踪人届けの
電話をかけるシーンで物語を終える、皮肉なエンディングだ。

 「ホルバインにならって」は死の舞踏である。社交界の有名人であった
己の過去に囚われた、ふたりの老人の物語。恐怖譚だ。
 ふたりが水とマッシュ・ポテト、ほうれん草と果物が供される食卓で
__テーブル上には生花どころか造花ですらなく、新聞紙が丸めてつっこんで
ある__社交的な会話を交わす場面がクライマックスだ。
 過去が現在を包囲しきっているので、老夫人も老紳士も、自分たちが社交の
中心であった時代の年齢のままであると信じ込んで、儀礼的で上品な会話を
続ける。こわい話だ。

by byogakudo | 2007-09-23 15:27 | 読書ノート | Comments(0)


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