2008年 02月 01日
~1月31日から続く もこもこした日本語、という印象は最後まで変わらなかった けれど、結構愉しんで読めたC.P.スノウ「ヨット船上の殺人」 (弘文堂新社 67新装初)。扉裏に作者の愛嬌ある肖像写真が出て いるが、人間通の科学者みたいだ。 ヨットに招かれた5人のひとりが犯人であることは決定的で ある中、探偵は各人の背景や心理状況から判断して犯人を絞って 行く。 中流以下の出身で、医者・科学者として優秀な青年が犯人では ありえないことを証明する際、上流階級とそれ以外のクラスの 人々の服の脱ぎ方(!)から推理を進める。 上のクラスに属する男は、子どものときからスポーツをいわば 道徳的義務に近いこととして習慣化しているので、集団のなかで 裸になることに無頓着である。 反対に、中流以下ではスポーツは奨励されず、人前で平気で 服を脱ぐ習慣は生じない。 成功が目前にある有能なこの青年の場合、今までの生活習慣を 変え、新しい自分に見合った階級のふるまい方を見せようとして、 事件が起きたとき、パジャマのズボンだけで人前に現れたのだ。 __こういう論理展開で、5人全員の心理的プロフィールを 作り上げ、犯人を指摘する。 原作は1932年の出版。第一次大戦のトラウマで神経症的に 行動しがちな若い世代とエドワーディアンとの対比も窺え、 日本語訳に文句はあるが、今読んでも面白いミステリだと思う。 「ハムレット復讐せよ」に比べたら、ずっと読みやすいと つけ加えておこう。 「立ち読みでもして下さい」と仰るが、3段組26頁を立ち読み する体力・視力がないので、「ユリイカ 08年2月号 特集中島らも」 を新宿紀伊国屋で購入。鈴木創士×丹生谷貴志対談を読んでから 店に来た。 ただのアンチでは二項対立を繰り返すだけ、もっと非限定的な かすかなノイズのような在りようを資質的にも指向した中島らも という存在が交互に語られる。 TV等で見られる道化的にふるまう中島らも像は、一種の韜晦 した姿なのだろう。 ただ表紙に使われたモノクローム写真とピンクの文字使いは、 アンチヒーロー/パンクの肖像を強調することにならないだろうか。 若い人々にわかりやすくインパクトを持って伝えようということ ではあろうが、商業的意図としては理解しても、やや疑問を感じた。
by byogakudo
| 2008-02-01 21:14
| 読書ノート
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