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猫額洞の日々

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2008年 11月 21日

(1)「シルヴェストル・ボナールの罪」を読み始める

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 アナトール・フランス、名前だけは知っている。読んだことが
あるだろうか。
 昨夜から読み始める。オブジェ愛の小説かしら? 

 古書目録を読むのが大好きという、紙魚のような老学者、
シルヴェストル・ボナールは猫と老女中と共にひっそりと、
セーヌ河畔に暮らしている。
 ある日、長年探し求めていた古文書の実在が明らかになり、
彼はわざわざシチリアにまで赴くのだが・・・。

 彼の日記を再録するかたちで小説は進むが、今は本という
オブジェにしか関心のない老人にも、少年時代はあった。
 少年・シルヴェストルが欲しくて仕方なかったのが、悪趣味な
人形だ。

<私の好きな人形はせめて美しくはあったろうか。いな、それは
今でも目に残っている。両頰には朱色の斑点がついていた。
ふにゃふにゃした短い腕、醜悪な木の手、左右にひろげた長い脚。
花模様のスカートが二本のピンで胴につけてあった。この二本の
ピンの黒い頭が今でも目に見えるようである。いかにも場末くさい
下品な人形であった。当時まだほんの子供であり、半ズボンも
たくさんはきつぶしてはいなかったけれど、この人形には品(ひん)も
たしなみもないこと、下卑(げび)てがさつだということを、私は私なりに、
しかも痛切に感じていた。それにもかかわらず好きなのである。
いな、それゆえにこそ好きなのである。ただ一途に好きなのである。
ほしいのである。>(p24)

 とてもよくわかる。悪趣味であるからこそ訴えてくるオブジェって、
あるものだ。

 後に彼が知り合う貴族の夫婦は、印刷技術が優れている訳ではない、
たんに珍しいだけのマッチ箱を求めてシチリアまでやって来た。
 彼はその蒐集をくだらないとは思うものの、自分の古文書趣味も
似たようなものだと自覚する。

 オブジェ愛の小説として愉しく読んでいるが、メロドラマティックな
展開には疑問あり、かしら。

   (アナトール・フランス 岩波文庫 76再 帯)

11月24日に続く~

by byogakudo | 2008-11-21 20:43 | 読書ノート | Comments(0)


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