2008年 12月 17日
click to enlarge. お師匠さんからお借りしている3冊、まず恒川光太郎 「草祭(くさまつり)」(新潮社 08初帯)から。 美奥(びおく)という架空の地方都市が設定され、 その地に住む過去・現在の人々が不思議なできごとを 語る連作短篇集。最後の章で、物語がいわばスノードーム の中のできごとであることが暗示される。 出来は相変わらずいい。けれども、物足りなさは何による ものか。きれいに纏まっている分、こじんまり感が強いのか。 お師匠さんは、長篇を書いてみたらどうだろうと仰る。 暑苦しいくらいの大長篇にトライしてみるのは、いいかも 知れない。大失敗作を一度やってみると、違う角度から 短篇が書ける、かも知れない・・・。よい作家は失敗作を 試みる資格と権利がある。 昨夜から中村弦「天使の歩廊 ある建築家をめぐる物語」 (新潮社 08初帯)。建築物はよく書けていると、お師匠さんの コメントつきだ。1、2篇読んだが、その通り。 しかし、読んでいて、箇所箇所で不安が生じる。 主人公の建築家は、明治14(1881)年、銀座煉瓦街の 西洋洗濯店の次男として生まれる。父は深川出身、幕末に 横浜・居留地の外国人相手の洗濯屋に勤め、その店の 長女と結婚、暖簾分けのようなかたちで店をもった(p95)。 当時の先端をゆく職業であり、父は下町っ子、母はハイカラな 横浜という土地柄の出身なのに、彼女が赤ん坊の次男を 抱きながら、<「[略]お役人か何かになって、みんなに尊敬 されるようにおなり。お父ちゃんとお母ちゃんみたいに洗濯屋 なんかで終わるんじゃないよ」>(p6)と、冒頭、述べるのが 理解できない。 田舎の士族出身者が、一族の願いを背に、立身出世を 夢見て東京に出てきた訳ではあるまいに。町っ子の誇りが あると思うのであるが。 わたしは明治生まれではないし、都市ではなく田舎町の出身 だが、なんだかヘンに感じる。 眼目は建築物で、細かいところに拘泥していては、この 物語の主旨から外れると解っちゃいるけれど、そこが 重箱の隅の探検家、あちこちで躓いてしまう。
by byogakudo
| 2008-12-17 14:47
| 読書ノート
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