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猫額洞の日々

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2009年 01月 13日

シオドア・スタージョン「きみの血を」読了

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"Well,that's a story about THE BLOODY MARY and HER
SON."

 私信を読まれてカッとなり、少佐を殴った若い兵隊が、陸軍の
精神病院に送られて来る。

 小説の構成は、匿名の語り手による読者への誘い(他の文章とは
異なる活字で表される)があり、次に本文である、精神病院に
残された記録ファイル(精神科医と彼の上司との往復書簡、及び
患者である若い兵士の自伝的手記)、そして再び匿名の語り手に
よる結び、となる。

 吸血鬼ものではなく、マザコンの物語と読んだのだが。

 貧しいアル中の父親に虐待されて育った主人公は、早く死んだ
母親(彼女も夫に虐待される)と、母性的な恋人に人間的紐帯を
感じるだけで、孤立して生きてきた。
 自己決定能力が低く、少年院や軍隊等、自分の時間がない
生活にむしろ、安定できる質であるが、ときおり、ざわめきを
感じては森に行き、小動物を狩る。

 母親は常に彼に向かって、子どもは母親の血を奪って大きく
なる、と言い聞かせる。主人公はそれを文字通りに解釈して育つ。
普通に育てば、「母親の血を奪う」と言われても、比喩として
受止める。
 ところが、たしかに女は血を流す。月経にともなう失われた血、
出産時の出血、と。

 この小説内物語である母と息子の姿に、どうも近親相姦を
感じる。聖母子像であるが、血まみれのマリア( THE BLOODY
MARY)と聖性を欠くキリストの物語に思われた。
 他の読みも可能であろうけれど。

   (ハヤカワ文庫 03初)

by byogakudo | 2009-01-13 13:25 | 読書ノート | Comments(0)


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